2011/12/03

ゴヤ 光と影

かれこれ1ヶ月前のことなので、ちょっとアップが遅くなってしまいましたが、国立西洋美術館で開催中の『ゴヤ展』に行ってきました。

今回の『ゴヤ展』はスペインのプラド美術館所蔵の作品展。油彩画25点、素描40点、版画57点(内51点は国立西洋美術館所蔵作品)、資料(書簡)1点の計123点。ここまで大規模なフランシスコ・デ・ゴヤの展覧会は実に40年ぶりとのこと。

ゴヤの作品で真っ先に浮かぶのが、「裸のマハ」と「着衣のマハ」、そして「巨人」。しかし、数年前に「巨人」がゴヤの作品ではないという結論に達したと発表された今、ゴヤといえば、もう二つのマハなのです(すいません、他によく知らなくて)。スペインでは国宝級であるはずのマハの一作が、遠く日本までこうしてやって来たのですから見逃す手はありません。

会場に入ると、まずゴヤの自画像が。以後、ゴヤの油彩画や宮廷画家としての肖像画、またライフワークであった寓話的な版画の数々が展示されています。

ゴヤ「日傘」 1777年

ゴヤはもともと王立タピスリー工場での原画制作で才能を認められ、頭角を現したということで、まずはそのタピスリー、つまり綴れ織の壁掛の原画が展示されています。どれも美しい油彩画で、タピスリーの原画でこれだけ完成度が高いのだから、実際のタピスリーはどんなものだったのだろうと思いますが、残念ながらタピスリーの展示はありませんでした。それでもゴヤの油彩画の色彩感、またスペインの日常生活の情景を知る上でも、とても貴重な作品だと思います。

ゴヤ「着衣のマハ」 1800-07年

本業の傍ら(?)に、ゴヤが私的に描いたり、依頼を受けて描いた作品、主に女性を描いた作品が次のコーナーには展示されていました。ゴヤの代表作「着衣のマハ」もその中に飾られています。“マハ”とはスペイン語で「小粋な女」を意味する言葉だそうで、俗にスペインの下町娘を指していたようです。残念ながら「裸のマハ」は来日していませんが、このモデルが誰なのかというのは諸説あって、数年前には「裸のマハ」を題材にした映画も作られたほど。謎めいた女性は昔も今も人の心を掴んで離さないものなのでしょうね。

ゴヤ「ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスの肖像」 1798年

ゴヤはタピスリー用の原画制作に携わる一方で風俗画も多く残していますが、ある時期から政府高官や貴族らの肖像画を多く手掛けるようになったといいます。これは宮廷画家の座を狙っていたゴヤの野心の表れだったとも言われていますが、その甲斐あってか、ゴヤは宮廷画家に登用され、やがて首席宮廷画家にまで出世を遂げます。本展にも国王カルロス4世の肖像画をはじめ、この頃ゴヤが手掛けた肖像画が展示されていて、先の風俗画とは異なる手堅い作風が見て取れます。しかし、1792年に病から聴力を失うと、ゴヤの作品には厭世的な傾向が表れ、生業の肖像画にも敢えて理想化されない、時としてあからさまな画風が見られるようになったと言われています。

ゴヤ「魔女たちの飛翔」 1798年

このようにゴヤは、「着衣のマハ」のような美しい作品や色鮮やかな風俗画があったり、かっちりとした肖像画があったりする一方で、「わが子を食うサトゥルヌス」(非展示)のようなちょっと不気味で怖い絵画があるのもユニークなところ。そうした悪夢的な作風や戯画は版画シリーズ<ロス・カプリーチョス>や<素描帖>にも多くあり、本展覧会でもゴヤのそのもう一つの側面を垣間見ることができます。人間観察の鋭さや社会風刺、権力批判はゴヤの風俗画や肖像画とはまた違う面白さがあります。

ゴヤは一筋縄ではいかない多面性を持った画家だったということが良く分かる展覧会でした。


【プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影】
国立西洋美術館にて
2012年1月29日まで

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