2012/02/19

歌川国芳展

またまたアップが遅れております。すでに会期が終了してしまいましたが、先日(といっても既に3週間前ですが)、六本木の森アーツセンターギャラリーで開催された『歌川国芳展』に行ってきました。

非常に人気だとのことで、夜間延長のときに伺ったのですが、並びはしなかったものの、館内はかなりにお客さんで混雑をしていました。

歌川国芳はここ数年で急に人気が高まり、一昨年の府中市美術館での『歌川国芳 奇と笑いの木版画』を皮切りに、昨年の原宿の太田記念美術館の『破天荒の浮世絵師 歌川国芳』、そして本展と大型の回顧展が続いています。

その中でも、ここ森アーツセンターギャラリーは前後期併せて約420点。あれだけたっぷり観たと思っていた府中市美術館は前後期併せて225点、太田記念美術館も同じく約240点。本展の展示数の多さに驚かされます。

構成としては、「武者絵」「説話」「役者絵」「美人画」「子ども絵」「風景画」「摺物と動物画」「戯画」「風俗・娯楽・情報」「肉筆画・板木、版本」というようにテーマごとにまとまって展示されていました。先の太田記念美術館の構成に近い感じです。

 
「八犬伝之内 芳流閣」(後期展示)

国芳がここまで面白がられているのは、人物を猫に模して描いた擬人画やユーモアあふれる戯画、風俗画など他の浮世絵師にないユニークさが独特だということにあると思うのですが、本来は武者絵や役者絵で世に出てきた人だけあって、武者絵や役者絵の構図の面白さ、ストーリー性のある人物描写、ダイナミックなタッチは当時の他の浮世絵師を抜きんでています。今回の展覧会は点数が多いだけあり、またその半分近くが武者絵や役者絵、説話絵などで占められていて、国芳の独自性が堪能できました。

「天竺徳兵衛」(後期展示)

「天竺徳兵衛」や「絵本合邦辻」、「毛谷村」など、歌舞伎を題材にした作品も多くありました。役者絵のコーナーではなく、武者絵のコーナーに展示されていたのは、それらの作品が国芳の武者絵や説話絵と同じように、歴史や伝説、物語などを基にした作品だからということなのでしょう。

「鏡面シリーズ 猫と遊ぶ娘」(前期展示)

国芳の美人画は、たとえば歌麿や春信の美人画のようにツンと澄ましたところがなく、また国貞のように妖艶でもなく、どちらかといえばその辺の娘さんというか、表情や仕草も愛嬌のあるところが面白いところです。 小道具ひとつとっても、生活感があって、江戸の市井を覗くようで楽しいものがあります。

「子供あそび 角のり」(後期展示)

天保の改革(1842年)の影響で役者や遊女、芸者の浮世絵が出版されることが禁じられると、国芳はそれを逆手に取り、子供や猫、魚、果ては器などまでも擬人化し、戯画や風刺画の世界にのめり込みます。擬人化された猫や魚たちの表情や仕草は、妙に人間味溢れ、まるで江戸っ子の生活・生態そのものであり、その滑稽さは今見ても十分楽しいものがあります。

「きん魚づくし ぼんぼん」(後期展示)

先の府中市美術館や太田記念美術館の歌川国芳展は浮世絵ファン、美術ファンが多く詰めかけていましたが、森アーツギャラリーは場所柄ということと媒体などの露出量の多さもあってか、若いカップルや仕事帰りのOLなどもかなり足を運んでいたようで、これからますます国芳人気が高まるのではないかというそんな予感のした展覧会でした。


【没後150年 歌川国芳展】
2011年12月17日(土)~2012年2月12日(日)
森アーツセンターギャラリーにて


奇想の天才絵師 歌川国芳奇想の天才絵師 歌川国芳

2012/02/01

フェルメールからのラブレター展

先日、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「フェルメールからのラブレター展」に行ってきました。

今回の展覧会は、フェルメールの「手紙を読む青衣の女」をはじめ、「手紙を書く女」、「手紙を書く女と召使い」を中心に、コミュニケーションや絆といったものをテーマにした同時代のオランダの画家たちの作品を併せて展示しています。

フェルメールの三作品が“手紙”というキーワードをテーマに描かれた作品ということで、それを膨らませた企画展といえますが、同時代のオランダ絵画も充実した作品が並び、面白く拝見しました。

一度に複数のフェルメール作品が公開される展覧会としては、2008年に7作品が集まり、東京都美術館で開かれた『フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち』以来のこと。今年は本展を含め、3つの展覧会で6作品が日本に上陸する“フェルメール・イヤー”ということで話題になっていることもあり、その幕開けを飾る展覧会として、さぞや混雑しているんだろうと思っていたのですが、自分が行った日は休日だったにもかかわらず、それほど混雑しておらず、幸いにも並ばずに入ることができました。

ヤン・ステーン「生徒にお仕置きをする教師」
1663-65年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

会場に入ると、まずは「人々のやりとり - しぐさ、視線、表情」というテーマで、仕事や余暇を楽しむ民衆の日常の姿を描いた風俗画が展示されています。一見、何気ない家庭の様子や日常の風景であっても、描き出される部屋の様子、服装の生地やデザイン、表情や視線等から、その家庭の暮らしぶりや男女の関係など、いろんな意味が絵画に込めていたということを面白く感じました。風俗画で評価の高いヤン・ステーンや、フェルメールと同時代にデルフトで活躍したピーテル・デ・ホーホらの作品が展示されています。

次のコーナーは「家族の絆、家族の空間」と題し、風俗画の中でも家族・家庭を描いたもの、また家事に勤しむ女性、酒を飲み騒ぐ老人や若者たちなどを描いた作品、道徳的な色合いの濃い作品などが取り上げられていました。

ピーテル・デ・ホーホ「中庭にいる女と子供」
1658-60年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー

会場のちょうど真ん中あたりのコーナーは「手紙を通したコミュニケーション」ということで、フェルメールの三作品を独立したスペースに飾り、同じテーマに関連した作品を反対側の壁側に展示していました。フェルメールの作品は小間に間隔をおいて飾られ、ゆったりとした空間で拝見することができます。

フェルメール作品のうち、「手紙を書く青衣の女」は日本初公開、「手紙を書く女」は13年ぶり、「手紙を書く女と召使」は3年ぶりの日本公開となります。特に、「手紙を書く青衣の女」は修復完了後の世界初公開ということで、鮮やかに再現された“フェルメール・ブルー”を鑑賞することができます。X線調査の結果なども説明されていて、フェルメールが細かな修正を施していたことや、今回の修正でこれまで見えなかった部分がクリアーになり、細部のニュアンスが可能な限り甦ったことが解説されています。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く青衣の女」
1663-64年頃  アムステルダム国立美術館

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女」
1665年頃  ワシントン・ナショナル・ギャラリー

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女と召使い」
1670年頃  アイルランド・ナショナル・ギャラリー

大航海時代のオランダは手紙が大切なコミュニケーション・ツールとなっていて、当時のヨーロッパの中でも最も識字率の高い地域のひとつだったそうです。手紙をテーマにした作品の裏にあるドラマを想像するのも面白いのではないでしょうか。

最後は「職業上の、あるいは学術的コミュニケーション」というちょっと小難しいテーマ。要するに、学ぶということ、また仕事を通じてのコミュニケーションにスポットを当てているといっていいでしょう。このヤン・リーフェンスは、レンブラントと同じくベーテル・ラストマンに師事しており、レンブラントとも一時期共同の工房を持ったこともあることから、作品もどこか似通ったところが感じられ、興味深く思いました。

ヤン・リーフェンス「机に向かう簿記係」
1629年頃 個人蔵

フェルメールの展示会というと、大概、フェルメールの周囲の、同時代のオランダの画家の作品が一緒に展示されるのが通例ですが、今回の展覧会は、コミュニケーションや絆といったテーマに絞り、企画されたという点でユニークなものだったと思います。


【フェルメールからのラブレター展】
2012年3月14日(水)まで
東急Bunkamura ザ・ミュージアムにて
もっと知りたいフェルメール―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいフェルメール―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)








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