2012/04/30

KORIN展

根津美術館で開催中の『KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」』を観てきました。

昨年の開催で企画されていた展覧会ですが、東日本大震災の影響により中止となり、一年遅れで開催されました。

ゴールデンウィークの頃の根津美術館といえば、庭園の見事なカキツバタ。この時期に合わせ、光琳の「燕子花図屏風」はたびたび公開されてきましたが、今年はメトロポリタン美術館所蔵の光琳の名品「八橋図屏風」が来日し、並んで公開されることになりました。光琳を代表する二つのカキツバタ。同じ会場で展示されるのは実に100年ぶりなんだとか。「八橋図屏風」と「燕子花図屏風」が並ぶ姿を鑑賞できるなんて琳派ファンなら誰もが夢見たことではないでしょうか。

本展は、「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」を中心に、光琳の作品を展示。また後年酒井抱一が記した「光琳百図」との比較をし、光琳画の諸相を見ることができます。

尾形光琳が画業を始めたのは比較的遅く、30代を過ぎてからで、本格的に専念するのは40代に入ってからともいわれています。かつてはメトロポリタン美術館所蔵の「八橋図屏風」の方が年代が先とされていたようですが、現在では40代半ばに「八橋図屏風」を描き、50代半ばに「燕子花図屏風」を描いたといわれています。

尾形光琳 「燕子花図屏風」(国宝)
江戸時代・18世紀 根津美術館蔵

「燕子花図屏風」は個人的にこれまで何度か拝見してますが、いつ観ても新鮮というか、面白いというか、全く見飽きることがありません。なんといってもその意匠性の高さ。シンプルかつ斬新なデザイン。まるで心地よい旋律を奏でるようなリズミカルなカキツバタの配置。余計なものを排除し、意味のあるものだけを選択し抽出するシンプリシティに徹した光琳の素晴らしいインスピレーション。まさしく琳派の傑作中の傑作です。

尾形光琳 「八橋図屏風」
江戸時代・18世紀 メトロポリタン美術館蔵

一方の「八橋図屏風」。酒井抱一による模作は観たことがありますが、光琳のホンモノは初めて拝見しました。こちらも「燕子花図」に劣らぬ高いデザイン力を誇り、橋が加えられることで、より幾何学的で、複雑なリズムが生まれ、水が描かれていないのに、水の流れや音まで伝わってくるような存在感のある屏風です。「燕子花図」も「伊勢物語」の「八橋」の段に材を取ったものですが、「八橋図」は橋を配したことにより、その物語性がより明確になっています。カキツバタの描き方も、「燕子花図」はぼってりと厚塗りで、花の群青と茎草の緑青が極めて濃厚でしたが、「八橋図」は「燕子花図」のようなマットな感じはなく、花びらにも黄や白を入れたり、花弁の裏を描くなど具象化されています。

「燕子花図」は型紙を使用し、クローンカキツバタを作って描いているというのは割と知られていますが、その技術は実は高度で、あらかじめ屏風に型紙を貼り、その上に金箔を貼ってから型紙を外し、金箔のないところ(型紙を置いていたところ)に色を塗っていく“型抜き法”という染色の技法が用いられているそうです。一方の「八橋図」は金屏風の上に直接絵を描いているとのこと。金箔の上に絵を描くことは大変難しく、そのためか「八橋図」の実物は剥落した箇所が多く見られます。また、これは実際に観てみないと分からないことですが、金箔の上に描いたものとそうでないものとで、発色にも微妙な違いが現れています。

尾形光琳 「伊勢物語八橋図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

光琳は「燕子花図」と「八橋図」以外にも“カキツバタ”を多く描いており、その一部が本展でも展示されています。「伊勢物語八橋図」は「伊勢物語」の同じ場面を基にした掛け軸で、人物を描くことで全く異なる作品となっています。

尾形光琳 「白楽天図屏風」
江戸時代・18世紀 根津美術館蔵

そのほか光琳の作品では、宗達の「松島図屏風」を思わせる波と転覆ギリギリに垂直な舟の構図が印象的な「白楽天図屏風」や光琳初期の「十二ヶ月歌意図屏風」、光琳のパトロンを描いた「中村内蔵助蔵」(重要文化財)、最晩年の「四季草花図屏風」などが展示されています。また、昨年の千葉市美術館の『酒井抱一と江戸絵画の全貌』にも出展されていた抱一の「青楓朱楓図屏風」が展示されています。これは光琳の原画に基づいた作品で、現在光琳作の屏風は所在不明だそうですが、作品の隣には『光琳百図』にあるその原画も参考展示されています。

酒井抱一 「青楓朱楓図屏風」(右隻)
江戸時代・1818年 個人蔵

今年は庭園のカキツバタの開花が遅れていましたが、ようやく少しずつ咲き始めました。恐らくゴールデンウィーク後半には満開になるのではないでしょうか。1ヶ月の短期公開ですが、庭園のカキツバタを愛で、光琳の二つのカキツバタを愛でるという贅沢は、二度と味わえないかもしれません。この機会に是非。


【KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」 】
2012年5月20日(日) まで
根津美術館にて












※カキツバタの写真はおととしのものです。




もっと知りたい尾形光琳―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい尾形光琳―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)









光琳デザイン光琳デザイン

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