2012/07/08

福田平八郎と日本画モダン

山種美術館で開催中の『福田平八郎と日本画モダン』展に行ってきました。前期展示に続き、昨日、後期展示も観てまいりました。

福田平八郎の作品は今まで山種美術館の企画展などでしかお目にかかったことがなく、まとまった形で作品を拝見する機会がなかったので、非常に楽しみにしていた展覧会です。

今回の展覧会は、日本画家・福田平八郎の作品を中心に、福田平八郎と同時代の大正・昭和の日本画家のデザインセンスに優れた、モダンな作品を集めています。

福田平八郎の作品自体は、前後期あわせても22作品と少々物足らない感はありますが、美術史家の山下祐二先生が名付け親だという“日本画モダン”という切り口の企画展としてはユニークで、大変面白く拝見しました。

会場に入ると、福田平八郎の代表作の一つ「筍」がお出迎え。竹林の落ち葉の中にスクッと立った黒々とした筍からは生命力や力強さが伝わってきます。福田平八郎は3年間も竹林に通っては竹や筍の写生をしたそうで、日展への出品締め切りのほんの数日前まで筍をもっと黒く描けないかと試行錯誤していたといいます。大胆かつシンプルな構図の「筍」が描かれた背景にはそうしたたゆまぬ努力があったのかと思うと恐れ入る作品です。

福田平八郎 「筍」
昭和22年(1947年) 山種美術館蔵

日本画の写実的な花鳥画の伝統と、琳派にも通じるような意匠性や装飾性が融合したモダニズムというんでしょうか、このデザイン感覚は今観ても十分通じるというか、斬新だなと思います。これはどれだけ絵が巧いとか、才能があるとか、そういうことだけではないセンスの問題なんでしょうね。でも、福田平八郎の場合、そのセンスの良さは、徹底した写生に裏打ちされたものだということがまた凄いところです。

福田平八郎 「花菖蒲」
昭和9年(1934年) 京都国立近代美術館蔵
(展示は6/24まで)

個人的に気に入った作品が「青柿」とこの「花菖蒲」。いずれアヤメかカキツバタ。これは菖蒲ですが、「花菖蒲」を描くにあたって福田平八郎は、光琳は花菖蒲をほとんどあらゆる構図で描きつくしているが、色には余地がまだ残されているとして、花や葉の色味を徹底的に研究したそうです。ただデザイン的に描かれているのかと思いきや、色の濃淡や明暗はどこまでも写実的で、水路には映える光や雲も描きこまれています。光の具合や風のそよぎを感じるような心地よさがあり、水の流れる音も聴こえてくるような初夏の清々しさに溢れています。

福田平八郎 「漣」
昭和7年(1932年) 大阪市立近代美術館建設準備室蔵
(展示は6/24まで)

本展で一番観たかったのが、やはりこの「漣」(さざなみ)。写真だと、ただの線の集まりにしか見えないかもしれませんが、実際に絵の前に立つと、水面のさざ波を見詰めているような錯覚に陥ります。さざ波の揺れというか、水面の反射の具合というか、一見抽象的な描き方なんだけれど実はとてもリアルだということに衝撃を受けます。

本作は福田平八郎が魚が釣れず浮きを睨んでいたときに、ふと目にした水面の美しい動きにはたと思いついたのだそうです。本作はもともと銀屏風の上に描く予定でいたのですが、手違いで金屏風が届いてしまい、やむを得ず金屏風の上にプラチナ箔(当初は銀箔といわれていた)を貼り、描いたといいます。会場には、銀箔だけ/金箔の上に銀箔/金箔の上にプラチナ箔の3つの箔があり、それぞれがどう見えるか比較できるようになっています。これを見ても、福田平八郎が当初考えていた“銀箔”より“金箔の上にプラチナ箔”の方が結果として良かったのではないかと思います。

福田平八郎 「牡丹」
大正13年(1924年) 山種美術館蔵

「漣」の隣に展示されていたのが、この「牡丹」。これがまた、どこか妖しげで夢幻的で、見事な作品でした。本作は二十代前半のときの作品。この当時はまだ後年のモダンで装飾的な作風ではなく、こうした宋元画の影響を受けた花鳥画や旧来の日本画然とした作品も多かったようです。

福田平八郎 「雨」
昭和28年(1953年) 東京国立近代美術館蔵
(後期展示)

後期は「漣」に代わり、「雨」が展示されています。ポツリポツリと大粒の雨が降り出し、瓦が濡れていく様子を描いた作品で、屋根の一部だけを切り取った斬新な構図と点々とした雨粒の足跡が印象的な作品です。瓦屋根に落ちる雨粒の映像が目に浮かぶようです。

小野竹喬 「晨朝」
昭和44年(1969年) 山種美術館蔵

つづいては、「2章 日本画モダン」。「主題の再解釈」「大胆なトリミング・斬新なアングル」「構図の妙」など、いくつかのテーマに分けられて展示されています。川端龍子、奥村土牛、小野竹喬、中村岳陵、前田青邨、山口蓬春など、山種美術館所蔵の作品を中心に、大胆な構図や色彩、デザイン的な視点が感じられる作品が展示されています。中村岳陵の「緑影」や川端龍子の「五鱗」、前田青の「おぼこ」などが個人的に特にいいなと思いました。

中村岳陵 「緑影」
昭和17年(1942年) 東京国立博物館蔵
(後期展示)

「琳派へのオマージュ」として、俵屋宗達と本阿弥光悦のコラボレーションによる「四季草花下絵和歌短冊帖」と並んで(正確には背中を挟んで)山種美術館のロビーに飾られている加山又造の陶板壁画の下絵も展示されていました。こうした近代日本画の中で琳派を観ると、時を隔てた作品にもかかわらず、一つの線で結ばれるから面白いものです。琳派こそ日本画モダンの原点なのだなと感じます。

日本画の伝統に新たな息吹を吹き込み、それが琳派となり、日本画モダンとなり、新しい伝統として今に息づく。そうした流れがよく分かる山種美術館らしい好企画な展覧会でした。


【福田平八郎と日本画モダン】
2012年7月22日(日)まで
山種美術館にて

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