2012/08/12

応挙の藤花図と近世の屏風

根津美術館で開催中の『応挙の藤花図と近世の屏風』展に行ってきました。

円山応挙の重要文化財「藤花図屏風」をメインに、根津美術館所蔵の近世絵画コレクションの中から、選りすぐりの11点の屏風を集めた展覧会です。

この日は、午前中に三井記念美術館で『日本美術デザイン大辞展』を観てきたのですが、三井記念美術館も円山応挙のコレクションで有名で、応挙の作品が何点も出展されており、図らずも“応挙祭り”となりました。

会場に入ると、「伊年」印の「草花図屏風」(6曲1隻)と「夏秋草図屏風」(6曲1双)がまずお出迎え。「伊年」印の“草花図”はこれまでにもいくつか観てきていますが、この「草花図屏風」は初公開になるそうです。

伊年の「草花図屏風」はタンポポやサクラソウ、スミレ、カキツバタ、カザグルマ、ケシなど春から夏にかけての花が描かれています。草花の描き方や配置、また彩色も少し控えめで、霞の中に浮かぶ草花のような、どこか儚げな印象を受けます。一方の「夏秋草図屏風」は2年前の『新創記念特別展』でも拝見した屏風。同じく墨色を主調とした草花図ですが、花というより草全体がしっかり描かれていて、構図、奥行き感など、より洗練されたものを感じます。

伊年印 「草花図屏風」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

狩野派がより華やかでリアルな草花図を描くようになると、「伊年」印(俵屋宗達工房)の草花図は流行遅れとなったということが解説に書かれていました。一方で、そうした写生的で情緒的な絵画表現はやがて応挙も参考にしたのではないかともありました。

「伊年」印の草花図の並びに展示されていた鶴沢探鯨の「秋草図屏風」(2曲1隻)も金地に秋の草花が描かれた琳派的な風合いを感じさせる作品でした。探鯨は京狩野派の絵師で、応挙は探鯨の弟子について画を学んだそうです。

長沢芦雪 「赤壁図屏風」(右隻)(重要美術品)
江戸時代・18世紀 根津美術館蔵

その次に登場するのが応挙門下の芦雪の「赤壁図屏風」。右隻には月夜の舟遊びが、左隻には赤壁への再訪の様子が、通常より広目の屏風に悠々と描かれています。これがとても素晴らしい。淡墨で描かれた赤壁の中、黒々とした濃墨の松のインパクトにまず驚きます。そして人物描写のディテール。人間の顔は淡い朱で彩色されていて、表情・姿も生き生きとし、細部までしっかり描きこまれています。こういうセンスというか、ユニークさというか、芦雪らしいなと感じます。


円山応挙 「藤花図屏風」(重要文化財)
江戸時代(安永7年)・1776年 根津美術館蔵

そして、「藤花図屏風」。六曲一双の屏風に右隻・左隻に一本づつ藤の木が描かれ、藤の咲き方も藤棚のような派手なものではなく、どちらかというと控えめです。しかし、その藤の花の美しいこと。間近で観ると、藤の花の艶やかな紫と眩い白のコントラストが絶妙で、一つ一つの花びらに輝くような色彩感があります。解説にも「質感は油絵を思わせる」とありましたが、その鮮やかで、豊かで、重層的な色彩表現は驚くほどです。

「藤花図」の幹や枝、蔓は、“付立て”という技法で表現されています。“付立て”は濃度の異なる墨を筆にふくませることで描線に濃淡が生じ、それにより陰影や立体感を表現するというもの。しかし、葉は一見“付立て”に見せながらも輪郭を加えていたり、花は写実的に描いたりと、応挙は水墨画の技法を応用しながら、さらに自在なテクニックで、実に技巧的に描いています。写生の卓抜さ、装飾性、そして情緒感。応挙の代表作といわれるだけある見事な作品でした。「藤花図屏風」の前には長椅子があり、しばらく時間を忘れて、絵に見入ってしまいました。

そのほか本展には、谷文晁の「赤壁図屏風」、椿椿山の「花鳥図屏風」、狩野尚信の「山水図屏風」など、素晴らしい屏風が展示されています。




【応挙の藤花図と近世の屏風】
2012年8月26日(日)まで
根津美術館にて











写真は根津美術館庭園の藤棚(ゴールデンウィークに撮影)



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