2012/11/03

琳派芸術Ⅱ

出光美術館で開催中の『琳派芸術Ⅱ』に行ってきました。

昨年開催された『琳派芸術』が、東日本大震災により途中閉幕となってしまったため、その展覧会の展示テーマや展示構成をリニューアルしたものとなります。

昨年の『琳派芸術』は二部構成で、 ≪第一部≫では俵屋宗達と尾形光琳を中心に、≪第二部≫では酒井抱一と鈴木其一を中心にした構成になっていました。

特に、昨年は酒井抱一の生誕250年ということもあり、琳派作品の優れたコレクションで名高い出光美術館らしい、充実したラインナップになっていましたが、残念ながら震災により会期途中で展示中止に。今回の展覧会は、その『琳派芸術』の≪第二部≫の基本的には焼き直しで、酒井抱一の作品をメインに江戸琳派の作品を特集していますが、新たなアプローチも加えて、あらためて琳派の魅力を紹介したものになっています。


Ⅰ 金と銀の世界

会場を入って右手には、琳派継承の象徴的作品、抱一の「風神雷神図屏風」が展示されています。抱一の「風神雷神図屏風」は光琳の「風神雷神図屏風」を模写したもので、宗達のものは観ていないのは有名な話ですが、自然への畏敬の念が感じられる宗達の風神雷神図に比べて、抱一の風神雷神図は風神と雷神の表情もどこから通俗的で、親しみやすい感じがします。

酒井抱一 「風神雷神図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

このほかに、その抱一が模写した光琳の「風神雷神図屏風」に裏絵として描いた「夏秋草図屏風」の下絵「夏秋草図屏風草稿」や、光琳の「八ツ橋図屏風」(メトロポリタン美術館蔵)を模写した「八ツ橋図屏風」、また内裏雛の背後に立てる雛屏風として作られたという8曲1双の贅沢なミニ屏風「四季花鳥図屏風」(裏・波濤図屏風)などが展示されています。

酒井抱一 「八ツ橋図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

第Ⅰ章は、伝・田中抱二の「秋草図屏風」を除き、展示されている6作品は前回の『琳派芸術』に出展されていた作品で、今回の展覧会では前後期の入れ替えなしで展示されるそうです。


Ⅱ 草花図の伝統

このコーナーでは琳派の代表的な画題である草花図の流れを追います。

まずは出光美術館所蔵の酒井抱一の「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」。何度も観ている作品ですが、抱一の花鳥図はいつ観ても優美で色彩感があり、もしこれを掛け軸にして毎月々々代わる代わる家に飾れたらどんなに素敵だろうと思いながらいつも観ています(笑)。

酒井抱一 「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」(左隻)
江戸時代 出光美術館蔵

左側の壁には、「伊年印草花図」と呼ばれる宗達工房の草花図屏風の代表的作例「四季草花図屏風」、工房の三代目・喜多川相説の「四季草花図貼付屏風」、尾形光琳の作と伝えられる「秋草図屏風」などが並び、琳派の草花図の変遷が分かるようになっています。

宗達と光琳の間には約100年の開きがあるわけですが、宗達の100年後にいきなり光琳が現れて琳派を誕生させたなんてことは当然なく、その間には喜多川相説のような絵師がいて、光琳の琳派も生まれたということが、この時系列的な展示を観ていくと非常によく納得できます。


Ⅲ 江戸琳派の先駆者

ここでは、酒井抱一が大成させた江戸琳派の先駆者となる3人の絵師の作品を紹介しています。

先ほどの宗達=光琳の流れと同じく、抱一は光琳のおよそ100年後に登場し、光琳に私淑して琳派を継承していくわけですが、ここでもいきなり抱一が江戸琳派を花開かせたわけではなく、その途中には光琳から抱一へとつながっていく江戸琳派の流れがあったことが、この展示からよく理解できます。

俵屋宗理 「朝顔図」
江戸時代 細見美術館蔵

加賀出身の医者と伝えられ、晩年の尾形乾山の弟子となり、江戸琳派風の作画を行った最初期の絵師の立林何帠(かげい)、抱一の『光琳百図』より先に『光琳画譜』として光琳の作品をまとめ、江戸でいち早く光琳風を広めた中村芳中、宗達・光琳に私淑して俵屋を名乗り、洒脱で瀟洒な造形性で江戸琳派の先駆けとなった俵屋宗理。いずれも非常に興味深く、このあたりをもっと観てみたいと思わせる展示でした。

ちなみに、このコーナーは抱一の「燕子花図屏風」を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で全て構成されています。


Ⅳ 俳諧・機知・闇

抱一は絵師として活動する前から、もともとが書画や俳句を嗜み、また江戸の文化人たちと広く交流をしていて、風流で機知に富んだ作品を多く発表しています。ここでは抱一や弟子の其一の作品を中心に、江戸琳派の特徴のひとつである新奇な画題や、意表をつく趣向を取り入れた作品を紹介しています。

鈴木其一 「雪中竹梅小禽図」
江戸時代 細見美術館蔵 (11/18まで展示)

雪の重みに耐えかねて落ちる雪と慌てて飛び出す雀、それに対する梅図の静けさ。其一の「雪中竹梅小禽図」は琳派の展覧会で何度かお目にかかっている作品ですが、其一らしい丁寧な描写と造形性、そして構図の素晴らしさに、いつ観ても感嘆します。

酒井抱一 「月夜楓図」
 江戸時代 静岡県立美術館蔵 (11/18まで展示)

これも昨年、千葉市美術館で開催された『酒井抱一と江戸琳派の全貌』で拝見した作品。色づき始めた紅葉を墨の濃淡で表現した色彩感、何よりほのかな月明かりとたなびく雲から伝わる静謐さ、抱一の卓越した描写力を見事に表した一枚だと思います。

こちらのコーナーも抱一の2作品を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で構成されています。


Ⅴ 抱一門下の逸材

最後のコーナーは抱一門下の作品ということなのですが、実際には鈴木其一の作品だけで、しかも全作品(前後期あわせて8作品)が前回の『琳派芸術』でも展示済みの作品でした。昨年の『酒井抱一と江戸琳派の全貌』では池田孤邨や田中抱二(本展では2点出展されている)など抱一の弟子たちの優れた作品が多く展示されていて、大変興味深く感じたのですが、其一が抱一の門人の中でもいかに群を抜いて優れていたとはいえ、取り上げるのが其一だけで、しかも前回と同じ作品というのは、いくら何でも芸がないのではないでしょうか。

鈴木其一 「四季花木図屏風」(左隻)
江戸時代 出光美術館蔵

ここ数年、琳派の展覧会が多く続いてますので、既出感は拭えませんが、いいものは何度観てもいいもので、江戸琳派を中心にまとめ、また宗達・光琳・抱一以外の琳派の流れにも着目したという点で興味深い展覧会でした。


【琳派芸術Ⅱ】
2012年12月16日(日)まで
出光美術館にて


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