2013/05/05

源氏絵と伊勢絵

出光美術館で開催中の『源氏絵と伊勢絵 -描かれた恋物語』を観てきました。

先にサントリー美術館の『「もののあはれ」と日本の美』を観てきたのですが、関連性の高い企画でもあり、ちょうどラ・フォル・ジュルネで日比谷に出かけてたこともあり、こちらも覗いてきました。

二つの展覧会を一緒に紹介しているメディアもあったりして、また出光美術館とサントリー美術館で作品の貸し借りもしているので何か合同のイベントとか、チケット割引制度などあればいいのにと思ったのですが、そういうのはさすがにないみたいですね。

出光美術館での本展はタイトルの冠に『土佐光吉没後400年記念』とあり、桃山時代後期から江戸初期にかけて活躍した土佐派の絵師・土佐光吉の作品にスポットを当てつつ、源氏絵と伊勢絵の世界、それぞれの共通点などを紹介しています。

会場の構成は以下の通りです:
1 貴公子の肖像-光源氏と在原業平
2 源氏絵の恋のゆくえ-土佐派と狩野派
3 伊勢絵の展開-嵯峨本とその周辺
4 物語絵の交錯-土佐光吉の源氏絵と伊勢絵
5 イメージの拡大-いわゆる<留守模様>へ

会場に入るとまず、岩佐又兵衛の「野々宮図」と「在原業平図」が並び、光源氏と在原業平の出自や人となりの説明がされています。『源氏物語』も『伊勢物語』もその話の筋を知らなくても、この二人のことを知らないと何も面白くないので、まずはここでしっかりお勉強。

岩佐又兵衛 「源氏物語 野々宮図」(重要美術品)
江戸時代 出光美術館蔵
(※本展終了後の6/5から『「もののあはれ」と日本の美』に出展されます)

岩佐又兵衛 「在原業平図」(重要美術品)
江戸時代 出光美術館蔵

「野々宮図」は、『源氏物語』の賢木の一場面を絵画化したもので、物語を説明的に描かず、源氏の姿だけをピックアップして描くことは当時としては斬新なものだったようです。作品は墨画ですが、唇と頬にわずかに朱が挿されています。「在原業平図」は、歌仙絵としては座って描かれるのが一般的だということですが、又兵衛の描く立ち姿の業平からはふわりとした彼の自由さのようなものが伝わってきます。衣の柄にグラデーションがかかっていたり、模様や線の細かな描写など非常に丁寧に描きこまれています。

土佐千代(伝) 「源氏物語図屏風」(右隻)
室町時代 出光美術館蔵

土佐派と狩野派の源氏絵が並ぶ中で、まず目に留まったのが光信の娘・千代の作品と伝えられる「源氏物語図屏風」。右隻に春、左隻に冬の光景が描かれ、物語の流れよりも季節を感じる素晴らしい屏風絵です。草花の繊細な表現もさることながら、岩や樹木、特に流れ落ちる滝の表現が秀逸で、金雲と色鮮やかな彩色も美しく、桃山絵画の絢爛さを先取りしたような作品でした。

狩野探幽 「源氏物語 賢木・澪標図屏風」(右隻)
江戸時代・寛文9年(1669年) 出光美術館蔵

展示室2には探幽の晩年の優品「源氏物語 賢木・澪標図屏風」が展示されていました。古典的な大和絵にならった趣のある屏風で、探幽らしい上品で優美な作品です。金雲は霞のように朧げで、なにか儚さや夢幻のようなものさえ感じます。

そのほか源氏絵としては、扇面形式の源氏絵の最初期の作例とされる扇絵を海北友松の屏風下絵に貼った「扇面流貼付屏風」や、光信の作(解説には光信以後光吉以前の土佐派とあり)と伝わる「源氏物語画帖」など、狩野派や土佐派の作品をとおしてその魅力に迫っています。

岩佐又兵衛 「伊勢物語 くたかけ図」(重要美術品)
江戸時代 出光美術館蔵

伊勢絵は、伊勢絵の規範的な図様として江戸時代に広く浸透する嵯峨本『伊勢物語』の挿絵の誕生前後の作品をとおしてその成り立ちを紐解くということになっていますが、そもそも作品数が少ないので、あまりピンときませんでした。嵯峨本の挿絵は狩野派の絵師によるものという説が強いそうですが、それに先んじる土佐派の作とされる「伊勢物語色紙貼交屏風」は嵯峨本との共通点が多く、嵯峨本への土佐派の影響が指摘されていました。

ここで目に付いたのはやはり又兵衛で、「くたかけ図」は田舎女と一夜を共にした業平が“やり逃げ”して帰るのですが、女は鶏が早く鳴いたから朝だと思って帰ってしまったのだと嘆くという有名な場面を描いたもの。霞を金泥と銀泥(黒く変色してますが)を交互に刷くという相変わらず丁寧な仕事をしていて、切り取られたその一瞬の表現から高い物語性が感じられて秀逸です。

土佐光吉(伝) 「源氏物語図屏風」(右隻)
桃山時代 出光美術館蔵

展示室3では土佐光吉の作品を中心に源氏絵と伊勢絵の関連性を探ります。そもそも源氏物語への伊勢物語の影響は広く知られるところですが、その絵画作品にも関連性は多く、その往還が指摘されているとのことです。

土佐派というと、光長、光信、光起が三筆として知られますが、土佐光吉は室町時代後期を代表する絵師光信の子・光茂の門人で、さらには江戸前期を代表する土佐派の絵師・光起の祖父にあたります。桃山時代に活躍した狩野永徳や長谷川等伯と活動期がかぶり、また京から離れた大坂・堺を拠点にしていたため、同時代の絵師に比べて知名度はいま一つですが、その作品は桃山らしさを感じさせつつも決して華美にならず土佐派らしい上品な佇まいが印象的です。

土佐光吉 「源氏物語図色紙」より「葵」
桃山時代 石山寺蔵

重要文化財の指定が決まっているという光吉の「源氏物語手鑑」も素晴らしいのですが、光吉筆と伝えられる「源氏物語図屏風」や「源氏物語図色紙」の美しさは特筆ものです。土佐派の大和絵はもっとおとなしい印象がありましたが、艶麗で細密な屏風や色紙には驚嘆しました。

展示室の最後には、登場人物や説明的な描写をすることなく物語を暗示する“留守模様”を紹介。その代表的な作品として出光美術館所蔵の「宇治橋柴舟図屏風」と酒井抱一の「八ツ橋図屏風」が展示されています。


【土佐光吉没後400年記念 源氏絵と伊勢絵 -描かれた恋物語】
2013年5月19日(日)まで
出光美術館にて


日本の美術 no.543 土佐光吉と近世やまと絵の系譜日本の美術 no.543 土佐光吉と近世やまと絵の系譜


やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ)やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ)

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