2013/11/26

カイユボット展

ブリヂストン美術館で開催中の『カイユボット -都市の印象派』に行ってきました。

昨年ブリヂストン美術館で開催された『あなたに見せたい絵があります。』展で初めて観たカイユボット。個人的に波長が合ったというか、何か新鮮な魅力を感じたのを覚えています。

カイユボットは印象派のコレクターとして知る人ぞ知る人物(といっても自分は知らなかったのですが)。もとは自身も画家で、印象派展には5回も参加しているそうです。

裕福な家に生まれ、印象派の画家仲間の絵を買い上げては経済的に支援したといいますが、一方でカイユボットは生活のために絵を売却する必要がなく、彼の絵は人目に触れる機会が少なかったとも。そのため画家としての名声は高まらなかったといわれています。

本展は、知られざる印象派の画家ギュスターヴ・カイユボットのアジア初の展覧会で、カイユボットの作品約60点が展示されているほか、カイユボットの弟マルシャル・カイユボットによる当時のパリや家族を写した貴重な写真や、カイユボットと同時代の印象派の画家たちの作品などを紹介しています。


1. 自画像

カイユボットの自画像は数えるほどしかないそうで、ここでは3点の自画像が展示されていました。若い頃の自画像はカンカン帽をかぶった優しそうなイケメンでしたが、40も過ぎると白髪も目立ち、ナイスミドルの紳士といった趣です。

「画家の肖像」
1889年頃 オルセー美術館蔵


Ⅱ. 室内、肖像画

室内画は主に自邸の室内で、肖像画は家族やごく近しい人しか描かなかったというカイユボット。その絵からはカイユボット家のセレブな暮らしぶりや優雅さが伝わってきます。

「昼食」
1876年 個人蔵

家族の団欒を描いているようで、静謐さを感じる一枚。それは静寂というか、静穏というか、孤独感というか。そのトーンはカイユボットの作品を通じて感じられます。

カイユボットはもとはアカデミズムの画家レオン・ポナに学んだといい、ポナを通じドガやモネら印象派の画家たちと知り合ったともいわれています。カイユボットの室内画を観てると、そうしたバックグラウンドや一回り年上のドガに影響を受けているだろうなということが想像できます。

「室内−読む女性」
1880年 個人蔵

カイユボットの絵はときどき歪んでいるというか、遠近感が独特というか、少し不自然さを受けることがあります。それは人間の目というよりカメラの目に近く、広角で写したような感じや、望遠レンズを使いアップで写した感じを受けるのですが、それをさらに誇張しているようなところがあります。弟マルシャルがカメラが趣味で、会場の所々にもその写真が飾ってありましたが、カイユボットも新時代のメカニズムである写真の影響を受けていて、このあたりは他の印象派や同時代の西洋絵画とは異なる感性を感じます。

「ピアノを弾く若い男」
1876年 ブリヂストン美術館蔵

会場には、昨年『あなたに見せたい絵があります。』展で新収蔵作品として公開され、話題を呼んだ「ピアノを弾く若い男」も展示されています。このほかカイユボットの代表作「床削り」の習作や、ポール・ユゴーの全身サイズの大きな肖像画などが印象的でした。


Ⅲ. 近代都市パリの風景

今回の展覧会で、やはり面白いというか、興味深かったのがパリの街を描いた一連の作品。カイユボットの絵が印象派らしく感じないのは、そのタッチもありますが、やはりこの独特の、写真や昔の映画のワンシーンのような構図なのだと思います。

「ヨーロッパ橋」
1876年 アソシアシオン・デ・ザミ・デュ・プティ・パレ蔵

鉄製の橋や広く整備された通り、蒸気機関車といった近代都市を象徴するその風景。労働者なども描かれていますが、ルノワールやマネのようにカフェや踊り子など市井の人々を描いた作品というのはなく(実際には描いているのかもしれませんが)、場所もパリの中心地や上流階級が暮らす地区に限定されていることに気づきます。その点、19世紀後半のパリの文化的な高揚感を写し取ったルノワールなど他の印象派の画家に比べ、同じ文化的な高揚感でも、より都会的な、洗練された印象を受けます。カイユボットが都市の印象派と呼ばれる由縁かもしれません。

「ヨーロッパ橋にて」
1876-1877年 キンベル美術館蔵(展示は11/10まで)

こんな写真のような切り取り方は、それまでの絵にはなかったのではないでしょうか。この新しさが当時どこまで評価されていたか分かりませんが、たとえば「見下ろした大通り」というカイユボットのパリの邸宅の恐らく3階あたりから歩道を見下ろしたアングルなんて伝統的な絵画の構図にはなかったもので、まるで写真表現を予感させ、当時としてはかなり斬新だったのではないかと思います。


Ⅳ. イエール、ノルマンディー、プティ・ジュヌヴィリエ

パリ郊外の別荘地イエールや、後年移り住むプティ・ジュヌヴィリエを描いた風景画も、ほかの印象派の風景画とは異なり、田舎の風景にはない優雅さが強く滲み出ています。

「ペリソワール」
1877年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

“ペリソワール”とは一人乗りのカヌーのこと。カヌーは弟マルシャルが始めた当時最先端のスポーツで、カヌーやボートはカイユボットを代表する主題となります。女性を描くことが多かった印象派の中では、カヌーやボートを漕ぐ男性を被写体にしたカイユボットの作品は異色だったそうです。

「シルクハットの漕手」
1877年頃 個人蔵

プティ・ジュヌヴィリエで描いた風景画には同時代の印象派の画家たちが用いた点描技法を取り入れた作品も多く展示されていました。それでも、どうなんでしょう、点描技法に徹せられなかったのか、あまり合わなかったのか、ただ流行りの絵画技法を使ってみましたというだけのようにも思えます。

「ジュヌヴィリエの平野、黄色い畑」
1884年 メルボルン国立ヴィクトリア美術館蔵

「向日葵、プティ・ジュヌヴィリエの庭」
1885年頃 個人蔵

この「向日葵、プティ・ジュヌヴィリエの庭」なんかも、ファインダーから覗いた風景というか、ヒマワリを前景に被写界深度の深い写真を撮りましたという感じで、とても写真的な近代的な印象がします。


Ⅴ. 静物画

最後に静物画が展示されています。静物だけに限ってしまうと、それまで感じた新鮮味に欠けるというか、それほど上手さを感じないのは何故でしょう。写真的にさえ感じた構図も平面的であまり面白くありません。それでも、装飾画を意図として描かれた「ひな菊の花壇」はカイユボットのセンスの良さを感じます。


カイユボットはとても器用で、技術的にも優れた画家ではあるけれど、ズバ抜けた感じというのは正直ありません。その辺りが他の印象派の画家と評価の面で開きが出た理由かもしれません。ただ面白いのは、絵から育ちの良さを感じるというか、画家として大成しなくても生きていけるからか、がむしゃらさがあまり感じられない点。逆にそこにカイユボットの余裕や優雅さがある気がします。


【カイユボット -都市の印象派】
2013年12月29日(日)まで
ブリヂストン美術館にて


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