2014/06/27

徒然草 美術で楽しむ古典文学

サントリー美術館で開催中の『徒然草 美術で楽しむ古典文学』に行ってきました。

鎌倉時代末期に兼好法師(今は“吉田兼好”と言わないそうな)によって書かれ、『枕草子』『方丈記』とともに日本三大随筆と呼ばれる『徒然草』。実は執筆から100年あまりの間は注目されず、広く知られるようになるのも慶長年間(1596~1615)になってからなのだそうです。

本展は、『徒然草』について触れた室町時代の史料や最初期の写本、江戸時代に登場する“徒然絵”などをとおして、『徒然草』の新たな魅力を教えてくれます。


第1章 兼行と徒然草

まずは兼行法師の肖像から。いずれも江戸時代に描かれたものですが、寛永の三筆といわれた松花堂昭乗の「兼行図」は手にした団扇も止まったまま巻物をじっと見つめ、海北友雪の「兼行法師像」(模本)も筆を手にしたまま一点を見つめ、いずれも何か熟思するような姿が印象的。一方、尾形乾山の「兼好法師図」は略画体の楽しい兼好法師。乾山は兼好が晩年を過ごした双ヶ丘に居を構えていたといい、隠士を自称していただけあって兼行に理想の姿を見ていたのかもしれません。

尾形乾山 「兼好法師図」
江戸時代・17世紀後半〜18世紀後半 個人蔵

ここでは高師直が恋文の代筆を依頼した和歌の名手として兼行が登場する「太平記絵巻」や兼行の短冊を含む国宝「宝積経要品 紙背 和歌短冊」のほか、兼行の伝記を紹介し『徒然草』再発見のきっかけを作ったとされる歌論書「正徹日記」、最初期の『徒然草』の写本、また兼行が生きた末法の世を代表する作品として国宝「法然上人絵伝」などが展示されています。


第2章 徒然草を描く

『徒然草』を絵画化した“徒然絵”を紹介。江戸初期・慶長年間になって『徒然草』が広まった理由には、古典文化復興のブームがあったのと、木版による本が大量に流通するようになったということがあるようです。いずれにしても戦国の世が終わり、それだけ平和になったということなのでしょう。

伝・住吉如慶 「徒然草図屏風」(右隻)
江戸時代・17世紀 熱田神宮蔵

『源氏物語』が“源氏絵”、『伊勢物語』が“伊勢絵”であるように、『徒然草』は“徒然絵”といいます。ここでは“徒然絵”に少なからぬ影響を与えたという『徒然草』の絵入注釈書『なぐさみ草』の図様や、広く流布した奈良絵本、そして徒然絵の画帖や屏風などを展示。中には、嫁入り道具なのでしょうか、金泥を加えた贅沢な絵本まであり、『徒然草』が当時の人々にどれだけ受け入れられていたかが分かります。

英一蝶 「徒然草・御室法師図」
江戸時代・17世紀後半 個人蔵

作品としては住吉如慶・具慶など住吉派の作品が多く、土佐光起の作品も一点ありましたが、同じやまと絵系でも土佐派による徒然絵は意外と少ないのだそうです。そんな中でも、世間のニーズに応じて狩野派もやまと絵的な徒然絵を手掛けていたようで、狩野常信の徒然絵(模本)など狩野派の作品もありました。狩野派では江戸後期に活躍した狩野寿信の「徒然草屏風」や英一蝶のユーモラスな「御室法師図」などが◎。

狩野寿信 「徒然草図屏風」(左隻)
江戸時代・19世紀 板橋区立美術館蔵

そのほか、奈良絵本を解体し屏風に貼った「奈良絵本『徒然草』貼交屏風」が面白い。本文と隣の挿絵が関連してなく、どうも無頓着に貼ったらしい(笑)。米沢市上杉博物館蔵の「徒然草図屏風」もかなりの見もの。挿絵と挿絵の境に金雲を施していて豪華。狩野派系の絵師によるものだろうとのことです。

「徒然草図屏風」(右隻)
江戸時代・17世紀 米沢市上杉博物館蔵


第3章 徒然草を読む

ここではサントリー美術館が近年収蔵した海北友雪の「徒然草絵巻」を全二十巻を公開。全段ではありませんが、相当のスペースを使ってるので、かなり見応えがあります。多くの徒然絵に影響を与えている「なぐさみ草」の図様とは関連性がなく、また成立年も徒然絵の中ではかなり早い時期のものではないかと指摘されているそうです。

海北友雪 「徒然草絵巻」 巻一部分
江戸時代・17世紀後半 サントリー美術館蔵

海北友雪 「徒然草絵巻」 巻九部分
江戸時代・17世紀後半 サントリー美術館蔵

友雪の絵巻はやまと絵系の作品の端正さとも違い、繊細かつ飄逸な筆致が印象的。徒然絵は“源氏絵”など物語絵とも異なり、どちらかというと一段読み切りといった感じの簡潔な話ばかりなので、分かりやすいのもポイント。恋愛経験の少ない男はつまらないとか、相手に気を使って話をしてると虚しくなるとか、家にごちゃごちゃと調度品が多いのは下品だとか、いろいろ面白い。


第4章 海北友雪の画業と「徒然草絵巻」

「徒然草絵巻」の海北友雪にスポットを当てています。海北友雪は『栄西と建仁寺展』で作品が多く紹介されていた安土桃山時代を代表する絵師の一人・海北友松の子。狩野派、長谷川派に押されて、なかなか注目される機会の少なかった海北派がこうして紹介されるのはとても嬉しいことです。

海北友雪 「一の谷合戦図屏風」
江戸時代・17世紀 埼玉県立歴史と民族の博物館蔵

素晴らしいのが水墨で、「五行之図」や「南都八景」、最後に展示されていた「秋蓮白鷺図」など、いずれも墨の濃淡の巧みな表現と柔らかな筆の運び、余白の使い方などがいい。屏風でも、扇を大胆にあしらった「一の谷合戦図屏風」や、人々の生き生きした表情や活気が伝わってくる「日吉山王祭礼図屏風」など見るべきものがあります。


『徒然草』を読むのは古典の教科書以来ですが、いま読んでみると、随筆というより“つぶやき”のようでもあり、ある種の自己啓発本だなと感じるところもあります。結構現代に通じる話も多く、そうだよなぁと納得しきり。それぞれの段の詞書には現代語訳も添えられていて解説も丁寧なので、古典文学に通じてなくても全く問題ありません。逆に古典だからといって敬遠しがちな人にオススメの展覧会です。


【徒然草 美術で楽しむ古典文学】
2014年7月21日(月・祝)まで
サントリー美術館にて


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