2015/01/25

物語絵 -〈ことば〉と〈かたち〉

出光美術館で開催中の『物語絵 -〈ことば〉と〈かたち〉』を観てきました。

おととし、出光美術館では『源氏物語』と『伊勢物語』の世界を絵画化した作品を集めた『源氏絵と伊勢絵』という展覧会がありましたが、今回は『源氏物語』や『伊勢物語』に加えて、『平家物語』や『西行物語』、『曽我物語』など、よりバラエティに富んだ物語絵の魅力を紹介しています。

会場の構成は以下の通り:
第1章 物語絵の想像力 -〈ことば〉の不確かさ
第2章 性愛と恋 -源氏絵を中心に
第3章 失恋と隠遁 -ここではない場所へ
第4章 出世と名声 -成功と失敗をめぐって
第5章 荒ぶる心 -軍記物語と仇討ち
第6章 祈りのちから -神仏をもとめて


まず足を止めたのが、復古大和絵の絵師・冷泉為恭の「雪月花図」。右に『源氏物語』、左に『枕草子』に材を取った作品で、為恭らしい緻密で細い墨の線と丁寧に施された彩色が美しい。遠景と前景のバランス、たなびく霞の濃さを金泥で表した程良さもいい。

冷泉為恭 「雪月花図」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

第2章の「性愛と恋」は“源氏絵”を中心に、第3章の「失恋と隠遁」では“伊勢絵”が中心となり、前回の『源氏絵と伊勢絵』のダイジェストのような感じ(出品作品中、前回の展覧会と重なる作品は宗達の「源氏物語図屏風断簡」の2点と「伊勢物語 武蔵野図色紙」のみ)。物語絵というと、やはり“源氏絵”と“伊勢絵”の人気は根強く、登場人物やキーワードを観ただけでそれが何を表すのか、当時の人々は頭に刷り込まれているというか、教養の一つでもあったのでしょうね。

岩佐勝友 「源氏物語図屏風」(部分) 
江戸時代・17世紀 出光美術館蔵

『源氏物語』では岩佐又兵衛の近親者あるいは岩佐派の絵師とされる岩佐勝友の「源氏物語図屏風」が素晴らしい。一扇に4~5ずつ、六曲に全54帖の場面を描いた一双の屏風で、線描は細部まで緻密かつ丁寧。金雲には紗綾形の文様が盛られています。人物の顔立ちや線にあまり又兵衛風を感じませんが、源氏が朧月夜を抱きかかえていたり、「須磨」の場面に雷神を書き加えていたりと、場面描写もドラマティックで生き生きとしていて又兵衛工房らしい濃厚な味わいを強く受けます。

俵屋宗達 「伊勢物語 武蔵野図色紙」
江戸時代・17世紀 出光美術館蔵

宗達(“伝”も含め)の作品が本展には5点出展されています。“源氏絵”や“伊勢絵”は注文も多く、工房も含め量産されていたのでしょう。その中で興味深かったのが「西行物語絵巻」で、宗達の作品で唯一、制作年が作中に示されているのだそうです。わたしが観に行ったときは宮廷の場面が展示されていましたが、会期中に展示替えがあり、後半には僧として放浪の旅に出る場面などもあります。出光美術館が所蔵する巻(一巻・二巻・四巻)だけでも約54mあるので、全て展示はできないでしょうが、図録には出光所蔵分の三巻全てが掲載されています。

絵・俵屋宗達、詞・烏丸光広 「西行物語絵巻」(部分)(重要文化財)
寛永7年・1630年 出光美術館蔵

そのほかにも住吉如慶の「木曽物語絵巻」、狩野派の作とされる「曽我物語図屏風」といった歌舞伎や文楽でおなじみの話や、住吉具慶の「宇治拾遺物語絵巻」、また“放屁もの”の「福富草子絵巻」などが並びます。

「天神縁起 尊意参内図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 出光美術館蔵

『平家物語』の合戦図を表した屏風が二つあり、内「一の谷・屋島・壇ノ浦合戦図屏風」は八曲一双の大画面に三つの合戦が描かれていて見ごたえあり。大勢の人物を一つ一つ表情まで細かく描き分けるその緻密さや、その豪壮な合戦描写の迫力に圧倒されます。

「平家物語 一の谷・屋島・壇ノ浦合戦図屏風」(部分)
江戸時代・17世紀 出光美術館蔵

今回の展覧会で個人的に一番興味深かったのが伝・又兵衛の「蟻通・貨狄造船図屏」。右隻に観阿弥の謡曲「自然居子」を、左隻に世阿弥の謡曲「蟻通」を描いたものとされていますが、解説によると『源氏物語』の「桐壷」の場面の可能性もあるとのことで、まだ検討の余地が残されているようです。特に右隻には恐ろしげな龍と巨大は鷁(中国の空想上の水鳥)を船首につけた舟が描かれ、なにか怪異的なおどろおどろしさと、映画を観るような面白さがあります。

伝・岩佐又兵衛 「蟻通・貨狄造船図屏」
江戸時代・17世紀 出光美術館蔵

尾形光琳 「伊勢物語禊図屏風」(重要美術品)
江戸時代・18世紀 出光美術館蔵

出光美術館の所蔵作品だけで構成されていますが、魅力的な作品が多く、興味深い展覧会でした。本展の図録は横長になっているので、横に長い屏風や絵巻も見やすく、また絵のアップも多く、見ていて楽しめます。ただ残念なのは左右反転してる絵が一つあること(代わりに正しい図版のコピーが挟み込まれてます)。展覧会の内容も良く、図録も考えて作られていただけに、ほんともったいない。


【物語絵 -〈ことば〉と〈かたち〉】
2015年2月15日まで
出光美術館にて

まろ、ん?―大掴源氏物語まろ、ん?―大掴源氏物語

2015/01/17

雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-

三井記念美術館で『雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-』を観てきました。

三井記念美術館のお正月といえば、円山応挙唯一の国宝「雪松図屏風」の公開。今年はその「雪松図」に合わせ、“雪月花”をテーマに作品を選び集めています。

会場の作品にはそれぞれに、雪をテーマにした作品だったら“雪”のマーク、月だったら“月”のマーク、松だったら“松”のマークが付けれていたりします。

<展示室1>から<展示室3>までは茶道具。
国宝の「志野茶碗 卯花墻」や茶道具の取り合わせ、また“雪月花”と関係の深い茶道具が並びます。

茶碗や竹花入といった茶道具には“銘”が付けられていますが、ここでも「雨後の月」や「淡雪」といった風情のある“銘”を付けられた茶道具が多くありました。

「残雪」と名付けられた平茶碗があって、平茶碗は夏の茶碗だそうですが、残雪を感じさせる白の平茶碗を使うことで暑い夏に涼しさを演出しようとしたのでしょうか。夏に残雪を愛でるとは、なんとも風流ですね。

「粉引茶碗 銘残雪」
朝鮮時代・16世紀 三井記念美術館蔵

<展示室4>は絵画。
広い展示室の正面中央には応挙の「雪松図屏風」。何度か拝見している作品ですが、こうして正面にドーンと置かれるとやはり見応えあるし素晴らしい。数ある応挙の作品の中でこれが最高傑作かというと異論があるのも事実ですが、国宝という名にふさわしい日本を代表する美しさと格調をそなえた作品であることは誰もが認めるところでしょう。

円山応挙 「雪松図屏風」(国宝)
江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵

面白かったのは抱一の「秋草に兎図襖」。風になびく秋の草花と真っ白な兎、そして右上にはうっすらとした朧月という取り合わせで、へぎ板の地を秋風に見立てていて秀逸。相変わらず洒落ています。

展示室入ってすぐのところにあった応挙の門人・山口素絢の「雪中松に鹿図屏風」や、同じく円山派の川端玉章の「東閣観梅・雪山楼閣図」もいい。玉章はほかにもいくつか出ていたのですが、玉章が10歳で三井家に年季奉公にきてたとは知りませんでした。そうした縁もあって、作品を多く所蔵しているのですね。

個人的には大好きな沈南蘋の「花鳥動物図」(11幅之内5幅展示)が出ていたのが嬉しい。それぞれ季節の花や実と鳥や猫といった動物の組み合わせで、さすが超絶技巧の描写力と鮮やかな色彩が素晴らしい。解説で赤い実をスモモとしていたのがありましたが、あれはライチじゃないでしょうか。ライチと白い鸚鵡の組み合わせは恐らく楊貴妃のつながりじゃないかと思いました。若冲もライチやランブータンなどを描いているので、沈南蘋が描いて何の不思議もありませんし。

酒井抱一 「秋草に兎図襖」
江戸時代・19世紀 三井記念美術館蔵

つづく<展示室5>、<展示室7>には、土佐光起の「四季草花図色紙」や、同じく光起の「水辺白菊図」、応挙の「富士山図」をはじめ、蒔絵の硯箱や茶箱、文台、また襖絵や能装束、さらには何とも素敵な「唐物竹組大茶籠」など、“雪月花”を材に取った作品が並びます。

“雪月花”といえば日本の伝統的な美の象徴。絵画や浮世絵、工芸品や茶道具までさまざまなところで“雪月花”をあしらうことで、季節を感じ、自然を思い、そこに美を見出していたのだなと感じるお正月らしい展覧会でした。


【雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-】
2015年1月24日まで
三井記念美術館にて


もっと知りたい円山応挙―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい円山応挙―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2015/01/11

東山魁夷と日本の四季

山種美術館で開催中の『没後15年記念 東山魁夷と日本の四季』に行ってきました。

国民的画家として今も人気が高い現代日本画家の大家・東山魁夷。本展は、東山魁夷の作品を中心に、魁夷の師にあたる画家の作品や、魁夷とともに皇居宮殿の障壁画等を手がけた日本画家の作品を紹介しています。

わたし個人は、実は東山魁夷の作品は正直あまり好きでなく、展覧会で彼の作品を観ることは割と多いものの、単独の展覧会にこれまで足を運んだことはありませんでした。

でも、日本画好きとしては、ただ嫌いで済ますのではなく、そこはちゃんと観ておかないといけないといけないですよね。はい、そう思って、伺って参りました。


第1章 風景画家への道

会場に入ってすぐのところには蔵王の樹氷を描いたという「白い嶺」。下から見上げるような大きく白い山容が蒼く澄んだ夜空に映えます。

ここでは魁夷の作品と共に、魁夷が師事した結城素明や川合玉堂、また義父の川﨑小虎の作品を展示。玉堂は4作品すべてが一昨年の『川合玉堂展』に出品されていたものでしたが、素明や小虎のそれほど観る機会もないので、有り難かったです。小虎の「草花絵巻」の淡い色彩がいいですね。

川合玉堂 「渓雨紅樹」
昭和21年(1946) 山種美術館蔵


第2章 《満ち来る潮》と皇居宮殿ゆかりの絵画

皇居の新宮殿のために描いた魁夷の傑作「朝明けの潮」の下絵や、「朝明けの潮」と同趣の作品をという山種美術館からの依頼で制作した「満ち来る潮」を展示。また、同様に新宮殿に納められた他の画家たちの作品の同趣作品等を紹介しています。

東山魁夷 「満ち来る潮」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

皇居新宮殿の長和殿に飾られている横14mという大作「朝明けの潮」。長和殿は一般参賀で天皇ご一家がお出ましになるバルコニーのある部屋。宮殿内でも最も横に長い部屋だそうです。そこに飾られている装飾画が東山魁夷の作品というだけで、その重要さが分かるというもの。その「朝明けの潮」を模して描いたのが、これまた横9mという「満ち来る潮」。こちらは以前にも拝見していますが、その迫力と美しさは圧巻。恐らく宗達の「松島図屏風」が念頭にあるのだと思いますが、日本人の好きな構図をよくつかんでるなと思います。

橋本明治 「朝陽桜」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

正殿東廊下の杉戸を担当したのが橋本明治と山口蓬春。それぞれ桜と楓を描き、その艶やかな色の美しさにうっとり。橋本明治というと芸妓を描いた作品がすぐ頭に思い浮かぶので(実際に本展にも出品作あり)、こういう花の絵というのも新鮮に感じます。蓬春の楓の色とりどりのグラデーションも面白い。

山口蓬春 「新宮殿杉戸楓 4分の1下絵」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

ほかに、安田靫彦の「万葉和歌」がいい。千草の間に納めた「万葉集歌額」に書かれた草花や鳥の歌10首から7首を選び、色美しい料紙に万葉仮名と草仮名でしたためたもの。安田靫彦自らの筆によるものだそうですが、非常に能筆というか、印象的な美しい字で驚きました。


第3章 京洛四季 ― 魁夷が愛した京都の四季

「京都は、今描いていただかないと、なくなります。 京都のあるうちに、描いておいてください」
会場の一角に掲げられていた川端康成が東山魁夷に送った手紙の一節が強く胸に響きます。その言葉に京都を訪れ描いた作品が「年暮る」だそうで、しんしんと降る雪の京都の町並みに今は失われた郷愁を強く掻き立てられます。

東山魁夷 「年暮る」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

 「夏に入る」のちょっと可愛らしささえ感じさせるモダンなセンス、「北山初雪」の整然とした北山杉が織りなす美しさもいいなと思います。

東山魁夷 「夏に入る」
昭和42年(1967) 市川市東山魁夷記念館蔵

東山魁夷 「北山初雪」
昭和43年(1968) 川端康成記念会蔵


第4章 四季を愛でる

今回の展覧会で一つ選ぶとしたら、「白い朝」。大雪の止んだ朝の冷たい空気。ときどきドサッと雪が落ちる音が聞こえてくるだけの静寂。羽根を膨らませ寒さにじっと耐える一羽の鳩。なんとなく長い冬の終わりを感じます。こういう作品も描くんだと、魁夷作品への苦手意識がかなり薄れたような気がします。

東山魁夷 「白い朝」
昭和55年(1980) 東京国立近代美術館蔵

奥の別室には、<魁夷とともに歩んだ画家たち>というテーマで、同時代の山本丘人、杉山寧、高山辰雄などの作品を紹介。杉山寧の「朝顔図」や森田沙伊の「ポピー」などが印象的でした。


【没後15年記念 東山魁夷と日本の四季】
2015年2月1日(日)まで
山種美術館にて


もっと知りたい東山魁夷―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい東山魁夷―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)


川端康成と東山魁夷―響きあう美の世界川端康成と東山魁夷―響きあう美の世界

2015/01/03

黒田記念館リニューアルオープン

長らく耐震補強工事で閉館していた東京国立博物館の黒田記念館がリニューアルオープンしましたので早速行って参りました。

黒田記念館は東京国立博物館の正門を出て東京芸術大学方面に進み、ちょうど最初の交差点の現在1階が上島珈琲店になっているレンガの建物。

日本近代洋画の父・黒田清輝の、遺産の一部を美術の奨励事業に役立てるようにという遺言により、黒田記念館として昭和3年(1928年)に竣工。黒田清輝の油彩画126点、デッサン170点のほか写生帖や書簡などを所蔵しています。

今回の改修工事で新設された<特別室>では、リニューアルオープン記念として、黒田の代表作「湖畔」、「智・感・情」、「読書」、「舞妓」の4作品が公開されています。

<特別室>は年3回のみの限定公開。常設展にあたる<黒田記念室>は休館日を除き通年公開されるようです。しかも観覧無料。


重要文化財 黒田清輝 「智・感・情」
明治32年(1899) (1/12まで展示)

「智・感・情」は向かって右から「智」「感」「情」。パリ万博で銀賞を受賞し、日本の洋画では最も早い時期に海外で高い評価を得た作品といわれます。実は特別室の4作品の中でこれだけが初見。その独特のポーズやこの時代には珍しい裸体(しかも西洋人のようなプロポーション)の構図から西洋画の三幅対のように思っていましたが、実際に観てみると何か三尊の仏像のような、どこか東洋的な印象を強く受けました。輪郭線がくっきりとしているのも意外な発見でした。

重要文化財 黒田清輝 「湖畔」
明治30年(1897) (1/12まで展示)

黒田清輝の名前を知らなくても、教科書や切手で誰もが一度は見たことのある「湖畔」。芦ノ湖畔で照子夫人をモデルに描いたもので、もともとは「避暑」というタイトルだったそうです。淡い色調と湖畔で涼む風情のある描写はいつ見ても素晴らしいなと思います。

[写真左] 重要文化財 黒田清輝 「舞妓」 明治26年(1893)
[写真右] 黒田清輝 「読書」 明治24年(1891) (1/12まで展示)

特別室での作品公開は今年は下記期間のみ。お間違いないように。
第1回:2015年1月2日(金)~1月12日(月・祝)
第2回:2015年3月23日(月)~4月5日(日)
第3回:2015年10月27日(火)~11月8日(日)


階段を挟んで通路の反対側は<黒田記念室>。こちらは6週間ごとに展示替えをし、遺族から寄贈された作品を中心に黒田記念館の所蔵作品を紹介するとのこと。今回はフランス留学時の油彩画や習作、帰国後初期の作品を中心に展示されています。

黒田清輝 「自画像(トルコ帽)」
明治22年(1889) (2/1まで展示)

黒田清輝 「祈祷」
明治22年(1889) (2/1まで展示)

「自画像(トルコ帽)」と「祈祷」 を描いた明治22年に黒田はオランダを訪れ、レンブラントの作品を模写するなどして、レンブラントの色調や筆致、光の処理などを強く意識していたといいます。後年の外光派の作品に比べるとアカデミズムの傾向が強く感じられます。

黒田清輝 「マンドリンを持てる女」
明治24年(1891) (2/1まで展示)

「マンドリンを持てる女」は黒田の代表作の「読書」とともにサロンに出品するも、「読書」は入選し、こちらは落選したとか。なんで乳を出してるかはよく分かりませんが、肌や布の質感や上気した表情などリアリズム調で素晴らしいと思いますけどね。


黒田の写生した裸体画や写生帖なども並んでいます。会場の隅には黒田が使用したイーゼルやパレット、椅子も。


黒田記念館の設計は歌舞伎座(第三期)や明治生命館、鳩山会館、ニコライ堂(再建時)などを手掛けた岡田信一郎によるもので、レンガ造りの外観だけでなく、アールヌーヴォー風の階段や天井など室内も見どころです。



【黒田記念館リニューアルオープン】
(特別室の開室は1/12(月・祝)まで)
観覧無料

詳しくは黒田記念館のウェブサイトまで

2015/01/02

博物館に初もうで

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。


さて、ここに行かずば美術館巡りは始まらない、ということで、今年も美術館はじめはトーハクの『博物館に初もうで』からスタートです!

今年は初めて開館前から並んでみました。30分前に到着した時には既に100人ぐらいの行列。あれよあれよという間に開館時には長い行列ができていました。13時ぐらいまで滞在していましたが、帰りも切符売り場には長い行列ができていました。JR上野駅公園口そばのミュージアムチケット(駅構内)でも入場券が買えますので事前に用意しておくことをお勧めします。

今年も一押しは等伯の「松林図屏風」。ここ何年かお正月の定番になってきましたね。昼間に来るといつも黒山の人だかりですが、今朝は朝一番だったので、ゆっくりと鑑賞させていただきました。ありがたやありがたや。

国宝 長谷川等伯 「松林図屏風」
安土桃山時代・16世紀 (1/12まで展示)

2階の特別室1では≪特集 博物館に初もうで~ひつじと吉祥~≫と題し、干支の羊にちなんだ絵画や美術品、また吉祥画題の作品などが展示されています。

重要文化財 趙福 「羊図(唐絵手鑑「筆耕園」のうち)」
中国 明時代・16世紀 (1/12まで展示)

「羊」という字は「よう」とも読みますが、音が「陽」と同じなので羊の絵はお祝いの席などに飾られたのだそうです。羊は日本にはいなかったので他の干支に比べて馴染みは薄く、中国絵画で描かれた羊を真似て描いていたようで、羊なのかヤギなのか、はたまた「これヒツジ?」というのもありました。

北尾重政 「羊と遊ぶ唐美人と唐子」
江戸時代・18世紀 (1/12まで展示)

北尾重政の浮世絵は羊というよりロバ?

歌川国芳 「よきことを菊の十二支」
江戸時代・19世紀 (1/12まで展示)

国芳の羊は最早何がなんだか分からない(笑)

[写真左] 雪村周継 「松鷹図」 室町時代・16世紀
[写真右] 渡辺南岳 「十二支図」 江戸時代・18世紀 (1/12まで展示)

そのほかに、雪村の「松鷹図」、雪舟と伝わる「梅下寿老図」、渡辺南岳の「十二支図」がいいですね。南岳は応挙の高弟といわれるだけあり、その生き生きとした動きや写実性と墨の筆触が見事。ただし、羊はヒツジというかシカというか…。

伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」
江戸時代・18世紀 (1/25まで展示)

2階7室の≪屏風と襖絵≫には若冲の「松梅群鶏図屏風」が展示。どの鶏も愛嬌があって何度観ても面白い。外国人の方もとても楽しそうに見入っていました。若冲の絵の魅力は万国共通ですね。ほかに池大雅の「西湖春景銭塘観潮図屏風」も素晴らしい。

英一蝶 「富士山図」
江戸時代・18世紀 (1/25まで展示)

つづく8室は江戸時代の書画。お正月らしくおめでい画題や十二支を描いた作品が並びます。

[写真左] 狩野探信 「百猿図」 江戸時代・18世紀
[写真右] 円山応挙 「虎嘯生風図」 江戸時代・天明6年(1786) (1/25まで展示)

応挙の「虎嘯生風図」は“空に向かって吼え、風を巻き起こす虎”を表した図。毛のふわっとした感触はさすが応挙。撫でたらさぞ気持ちいいだろうなと思わせます。江戸後期の鍛冶橋狩野家の絵師・探信の「百猿図」も果物の実のように連なる猿がかわいい。

歌川国貞(三代豊国) 「二見浦曙の圖」
江戸時代・19世紀 (1/25まで展示)

歌川広重 「名所江戸百景・山下町日比谷外さくら田」
江戸時代・安政4年(1857) (1/25まで展示)

10室の浮世絵コーナーでは国貞の「二見浦曙の圖」がいいですね。日の出がビームのように差し込んで夫婦岩も神々しい。一方の広重は「名所江戸百景」が3点出ていて、凧揚げを描いた「山下町日比谷外さくら田」」や「霞が関」、現在の三越本店、三井本館あたりの「するがてふ」には富士山が大きく、お正月らしさを演出しています。

鳥文斎栄之 「隅田川図巻」
江戸時代・19世紀 (1/25まで展示)


浮世絵では鳥文斎栄之の肉筆画「隅田川図巻」が素晴らしい。福禄寿と大黒天、恵比須が隅田川を上り吉原で花見をするという絵巻で、太夫たちに囲まれて遊興にふける神様たちが可笑しい。美人画の名手で知られた栄之らしい品とウィットを感じさせる逸品。

[写真左] 下村観山 「老子」 大正時代・20世紀
[写真右] 横山大観 「釈迦十六羅漢」 明治44年(1911) (2/8まで展示)

[写真左] 前田青邨 「竹取物語」 明治44年(1911)
[写真右] 小林古径 「阿弥陀堂」 大正4年(1915) (2/8まで展示)

1階18室は明治・大正の近代美術が中心。観山の「老子」は横浜美術館の『下村観山展』にも出品されてましたね。大観の「釈迦十六羅漢」は初めて見たかな?。古径の「阿弥陀堂」も昨年の『世紀の日本画』にも出ていました。青邨の「竹取物語」は月に帰るかぐや姫を武士たちが守る場面ですが、武士たちの慌てた表情の描写がうまい。

横山大観・下村観山・今村紫紅・小杉未醒 「東海道五十三次絵巻 巻3」
大正4年(1915) (2/8まで展示)

上右から下村観山、横山大観、下右から今村紫紅、小杉未醒

ここでは大観・観山・紫紅・未醒の日本美術院の4人の画家が分担して描いた「東海道五十三次絵巻」がオススメ。東海道を写生しながら旅し、全9巻をほぼ旅の間に完成させたそうです。今回はその内の一つで、三島から薩堆峠を展示。絵に4人それぞれの個性が出ていて、観ていて面白い。

藤島武二 「静」
大正5年(1916) (2/8まで展示)

最後には藤島武二の「静」。夕暮れなのでしょうか、赤く染まった雲と2本の虹。湖と山と空の色のコントラストがいい。

重要文化財 上野法橋・但馬房筆 「聖徳太子絵伝」
鎌倉時代・嘉元3年(1305) (1/12まで展示)

法隆寺宝物館には聖徳太子の生涯約70場面を季節ごと4面に分けて描いた「(嘉元本)聖徳太子絵伝」が出品中。馬屋での太子生誕や富士を黒駒で飛び越える話など有名な説話が描かれています。よく見ると確かに桜や紅葉、雪山や梅などがところどころに見え季節も分かります。12月頭まで公開されていた国宝「(延久本)聖徳太子絵伝」に次いで古い絵伝だそうです。ちなみに本館3室にも南北朝時代の「聖徳太子絵伝」が出ています。こちらは状態も良く、比較的きれい。川合玉堂の旧蔵品とか。


今年の『博物館に初もうで』はいつもの年より期間が短いので行くならお早めに。同じ期間中、黒田記念館が久しぶりにオープンし、黒田清輝の作品展が行われています。こちらも忘れずに。
黒田記念館リニューアルオープン


【博物館に初もうで】
日程: 2015年1月2日(金) ~ 2015年1月12日(月)
時間: 9:30~17:00(入館は16:30まで)
詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。