2015/02/08

みちのくの仏像

東京国立博物館で開催中の『みちのくの仏像』を観てまいりました。

東博本館1階の特別5室が会場なので、スペースのこともあって、展示作品数こそ多くはありませんが、東北を代表する仏像が出品されています。

地域の信仰の対象として、代々大切に受け継がれ、また東日本大震災で未曾有の被害を受けた人々の心の拠りどころとなったみちのくの仏像。これだけ大切な仏像がここまで一堂に介することができたのは、その収益の一部を東日本大震災で被害を受けた東北の文化財の修復に役立てたいという思いからだといいいます。

東北に仏教が本格的に広まるのは8世紀末の坂上田村麻呂による蝦夷征討のあと。都風の影響を感じさせる仏像もあれば、土着的な信仰と融合したような仏像や民衆と寄り添ったのであろう素朴な仏像もあったりして、東北の仏像の深さと魅力を堪能できます。

「聖観音菩薩立像」(重要文化財)
平安時代・11世紀 天台寺蔵

会場に入ってすぐのところにあるのが、岩手と青森の県境に近い天台寺の「聖観音菩薩立像」。カツラ材の一木造で、顔と腕を除く全身に残るノミ目が特徴的。荒いノミ目が手造り感の素朴さを感じさせる一方で、均一に刻まれた線はまるで模様のようにとても美しい。鉈彫りの仏像の傑作と言われているそうです。

「薬師如来坐像」(重要文化財)
平安時代・9世紀 双林寺蔵

宮城・栗原にある双林寺の「薬理如来坐像」(杉薬師)も襞の均一な線が美しい仏像。同じく双林寺の持国天と増長天とともにケヤキの大木の一材から造られているとか。

「薬師如来坐像」(国宝)
平安時代・9世紀 勝常寺蔵

福島・勝常寺の「薬師如来坐像」は東北で初めて国宝に指定された仏像。どっしりとした量感たっぷりの体躯、肉厚の手、深く刻まれた衣門、大きめの螺髪ととても印象的。薬師如来様の両脇には同じく国宝の日光菩薩立像と月光菩薩立像が控えます。東北の仏像といえば、というその名の高さと、存在感に圧倒されます。

「薬師如来坐像」(重要文化財)
平安時代・貞観4年(862) 黒石寺蔵

黒石寺といえば蘇民祭で有名な岩手・奥州市の古刹。ちょうど『みちのくの仏像』の期間中に蘇民祭があるのに、ご本尊をお寺の外に出してしまっていいのでしょうか…。とはいえ、そんな大事なときにも関わらず、ご本尊と両脇侍像を貸し出してくれたことに感謝せねばなりません。

この「薬師如来坐像」は本邦最古の墨書銘をもつ仏像だそうです。結構な大きさなのですが、カツラの一木造というからすごい。相当な巨木だったのでしょう。表情は厳しく、一説には蝦夷討伐後の東北の人々を威圧する意味が込められていたともいわれています。貞観地震と東日本大震災という1000年に一度といわれる大地震を二度も体験しているといい、ずっと東北の人々を見守ってきたんだなと思うと感慨深いものがあります。

「十二神将立像(丑神・寅神・卯神・酉神)」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 本山慈恩寺蔵

地方色豊かな、土地の風土を感じさせる仏像が多い中、いきなり洗練されたカッコ良さに目を奪われるのが山形・寒河江の慈恩寺の「十二神将立像」。慈恩寺は藤原家との関係が深く、中央の最新文化が入って来ていたそうで、この仏像も当時流行の慶派仏師によるものだといいます。

「十一面観音菩薩立像」(重要文化財)
鎌倉時代・14世紀 給分浜観音堂蔵

宮城の牝鹿半島の海の高台にあるという給分浜観音堂には東日本大震災で津波の被害を受けた人々が避難をし、身を寄せていたといいます。「十一面観音菩薩立像」はその本堂に祀られていた3m近い大きな仏様。顔や体躯、襞の模様は鎌倉後期の仏像の特徴が表れているとか。震災で傷ついた人々の心をどれだけ救ったのかと思うと涙が出る思いがします。

そのほかにも青森に残された円空の初期の仏像や近年発見されたという女神坐像、腕や手が欠損していたり傷みの激しい仏像もあったりします。こうした東北の仏像を観ていると、厳しい自然や災害の中で人々とともにあったんだなという、都の仏像には感じられないものが見えてきます。ひとつひとつにその土地との深いつながりがあり、人々の思いが込められており、信仰心の篤さを強く感じずにはいられません。


【特別展 みちのくの仏像】
2015年4月5日(日)まで
東京国立博物館本館特別5室にて


みちのくの仏像 (別冊太陽 日本のこころ)みちのくの仏像 (別冊太陽 日本のこころ)


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