2015/03/07

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展

三菱一号館美術館で開催中の『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 』で、“青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ ギャラリー展 ブロガー特別内覧会”がありましたので参加してまいりました。

ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、その名の通りアメリカの国立美術館ですが、西洋美術だけを集めた唯一の国立美術館なのだそうです。今回日本に来ている作品は、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの創設者の娘エイルサ・メロンが中心になって集められたコレクション。印象派やポスト印象派で占められています。

現在ワシントン・ナショナル・ギャラリーは大規模な改修中だそうで、日本初公開作品38点を含む全68点が今回紹介されています。

当日は仕事の関係で途中からの参加になり、ギャラリートークが最後の方しか聞けなかったのが残念ですが、時間の許す限り、上質のコレクションを堪能いたしました。


1 戸外での制作

ヨンキントやブーダンといった外光派から、モネやルノワールなど印象派、そしてセザンヌやスーラ、ゴッホらポスト印象派の作品まで。自然な陽光の表現や明るい色彩を見ていると、仕事帰りの疲れた頭が一気に癒されます。

[写真左から] アルフレッド・シスレー 「アルジャントゥイユのエロイーズ大通り」 1872年
カミーユ・ピサロ 「ルーヴシエンヌの花咲く果樹園」 1872年
カミーユ・ピサロ 「柵」 1872年

会場に入ってすぐのところに、たぶん意図的なんでしょうが、モネとピサロとシスレーの制作年の同じ作品が4点並んでいます。モネにしてもピサロにしても、これは展示されていた作品がたまたま何でしょうが、バルビゾン派の影響を感じるところがまだあったり、一方のシスレーは村の家並みや斜めの構図がシスレーぽいなと感じます。

[写真左から] ヴジェーヌ・ブーダン 「トゥルーヴィルの浜辺風景」 1863年
ヴジェーヌ・ブーダン 「ドーヴィスのカジノの演奏会」 1865年

ブーダンの作品は多くて、計8点出品されています。よく見るトゥルーヴィルの浜辺の光景だけでなく、あまり目にしない感じの作品もあって、なかなか興味深いです。最晩年も作品もあり、この人は年を経ても画風が変わらず、また印象派に影響を与えながらも、変に印象派にかぶれなかったのだなということが分かります。

[写真左] エドガー・ドガ 「競馬」 1871-72年
[写真右] エドゥアール・マネ 「競馬のレース」 1872年

競馬を題材にしたマネとドガの作品が並んでいたのも、二人の表現や視点の違いが見えて面白い。ドガのは競馬の始まる前の一コマ、マネのはターフを疾走する競走馬。小さな絵なんだけど、マネの絵の躍動感に惹かれます。

[写真左] ジョルジュ・スーラ 「《グランド・ジャット島》の習作」 1884/1885年
[写真右] ジョルジュ・スーラ 「海の風景(グラブリーヌ)」 1890年

『新印象派展』と同様に、こちらにもスーラの「グランド・ジャット島」の習作が。隣りには亡くなる前年の作品。粗めのドットと表現主義のような色彩感が90年代以降の新印象派の展開を予感させます。ちなみにスーラは額縁にあたるところもまで点描で埋め尽くしたり、額そのものも自ら指定したりしたそうですが、「海の風景」の額は画商がアメリカ用に勝手につけたもので、スーラの全く意図しないものだという話でした。

[写真左] オディロン・ルドン 「ブルターニュの村」 1890年頃
[写真右] オディロン・ルドン 「ブルターニュの海沿いの村」 1880年頃

ルドンが象徴主義に染まる前の作品でしょうか、こんな明るい青空のルドンは初めて観た気がします。こうした風景画の小品も描いていたんですね。ちなみに三菱一号館美術館のコレクションルームにはルドンの「グランブーケ」も展示中です。


2 友人とモデル

本展はルノワールが9点と最も多くて、その内の5点がこのコーナーに展示されてます。いずれも女性を描いたルノワールらしい優雅で美しい作品。本展のメインヴィジュアルにもなっている「猫を抱く女性」のモデルはルノワールお気に入りの小劇場の女優(ジャンヌ?)とのこと。柔らかな筆のタッチと温かみのある明るい色彩が素敵です。猫も写真で見るよりかなりモフモフ。

[写真左] ピエール=オーギュスト・ルノワール 「髪を編む若い女性」 1876年
[写真右] ピエール=オーギュスト・ルノワール 「猫を抱く女性」 1875年頃

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アンリオ夫人」 1876年頃

アンリオ夫人ことアンリエット・アンリオもルノワールのお気に入りのモデルの一人。彼女自身がこの絵を気に入り、ずっと手元に置いていたといいます。パステル調の背景もあいまって、清楚で優美な美しさに溢れています。それにしてもルノワールの描く女性は皆さん美しくて魅力的ですよね。

[写真左] エドゥアール・マネ 「キング・チャールズ・スパニエル犬」 1866年頃
[写真右] エドゥアール・マネ 「タマ、日本犬」 1875年頃

犬をモデルにした絵がかわいい。2点ともマネで、なぜか一つは犬の名前が“タマ”。お利口にポーズをとっています。ほかにもモリゾやロートレックの作品も良かったです。

[写真左] ピエール=オーギュスト・ルノワール 「クロード・モネ」 1872年
[写真右] ベルト・モリゾ 「窓辺にいる画家の姉」 1869年


3 芸術家の肖像

「この絵、いいなぁ」と思ったらルノワールでした(上の写真)。モネを描いたもので、くつろぐモネの姿に二人の仲の良さを感じさせます。闊達な筆さばきと明るい色彩が印象的なマネの作品も良いですね。ゴーギャンの作品は1888年頃のようなので、アルルでゴッホと共同生活を送っていた頃の作品でしょうか。

ポール・ゴーガン 「カリエールに捧げる自画像」 1888または1889年

いずれも20cm四方ぐらいの小さな作品ですが、ドガ、ヴュイヤール、ファンタン=ラトゥールの自画像が並んでいて、どれも20代前半の若い頃の自画像というのがなかなか興味深いです。

[写真左から] エドガー・ドガ 「白い襟の自画像」 1857年頃
エドゥアール・ヴュイヤール 「21歳の自画像」 1889年
アンリ・ファンタン=ラトゥール 「自画像」 1861年


4 静物画

静物画はどれも食べ物というにがユニークですね。マネのぷりっぷりの牡蠣、ヴァロンのこってりとした山盛りのバター、ファンタン=ラトゥールの写実的な桃とセザンヌやルノワールの印象派の果物・・・。じっと観ているだけでお腹が鳴りそうです。

[写真左から] エドゥアール・マネ 「牡蠣」 1862年
アントワーヌ・ヴォロン 「バターの塊」 1875/1885年

[写真左] ポール・セザンヌ 「3つの洋梨」 1878/1879年
[写真右] アンリ・ファンタン=ラトゥール 「皿の上の3つの桃」 1868年


5 ボナールとヴュイヤール

最後はボナールとヴュイヤールに1章があてられています。ともにナビ派の中でも“アンティミスト”と呼ばれる2人。でもこうしてよく観ると、その画風や方向性は全然違いますね。

[写真右から] エドゥアール・ヴュイヤール 「赤いスカーフの子供」 1891年頃
エドゥアール・ヴュイヤール 「黒い服の女性」 1891年頃
エドゥアール・ヴュイヤール 「コーヒーを飲む二人の女性」 1893年頃
エドゥアール・ヴュイヤール 「会話」 1891年

ヴュイヤールは割と小さな作品ばかりだったのですが、厚紙に油彩で描いているものが多くて、そのマットな質感と小さな空間に閉じ込められた独特の世界のたちまち虜になりました。コーヒーを飲む女性や手をつなぐ親子、女性が食卓で何か作業をしているのを見つめる猫…。静かな時間の流れを感じます。

[写真左から] ピエール・ボナール 「花束」 1926年頃
ピエール・ボナール 「画家のアトリエ」 1900年
ピエール・ボナール 「緑色のテーブル」 1910年頃

ボナールはこれまでちゃんと観る機会がなかったのですが、なかなか味わいがあっていいですね。初期はナビ派的な平坦な構成の作品が多いようですが、後期は色彩豊かな風景画もあって、その移り変わりも分かります。

[写真左] ピエール・ボナール 「画家の庭の階段」 1942/1944年
[写真右] ピエール・ボナール 「庭のテーブルセット」 1908年頃

美術史に名を残すような傑作が来ているわけではありませんが、印象派を代表する画家の作品が充実していて、小品ながらもコレクターの趣味の良さが光る優品が揃ってます。


※展示会場内の画像は特別に主催者の許可を得て撮影したものです。


【ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 ~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから】
2015年5月24日(日)まで
三菱一号館美術館にて


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