2015/03/01

ベスト・オブ・ザ・ベスト

ブリヂストン美術館で開催中の『ベスト・オブ・ザ・ベスト』を観てまいりました。

この展覧会を最後にブリヂストン美術館はしばらくの間、ビルの建て替えのため休館となります。

ブリヂストン美術館といえば、東京でも有数の西洋画系の美術館。その開館は国立西洋美術館よりも早いといいます。

本展はそのブリヂストン美術館が誇る美術品のベスト・コレクション展。ブリヂストン美術館の母体となる石橋財団には現在約2,500点のコレクションがあるそうです。そのうち約1,600点が東京のブリヂストン美術館で管理されていて、本展では約160点の作品が展示されています。

その中から、さらに個人的に選んだ私的ベスト・オブ・ベスト10選+1をご紹介。(10本に絞りきれませんでしたw)。


最初の部屋<第1室>ではブリヂストン美術館の歩みとして美術館の歴史を振り返るパネルや史料などが展示されているのですが、次の<第4室>からは印象派から順に左回りで戦後美術まで回っていくような構成になっています。

エドガー・ドガ 「レオポール・ルヴェールの肖像」
1874年頃

まずは印象派。ブリヂストン美術館所蔵の印象派というと、ルノワールやモネ、マネ、カイユボットなどとても充実していますが、個人的に好きな作品を一枚選ぶとすると、これかなと(ただ単にドガが好きなもので)。灰色の背景と黒づくめの人物のシックな画面に、頭部周りの朱色の模様(?)がアクセントになっていて、ちょっと陽気な印象を感じるぐらいに軽やかさがあっていいですね。

モーリス・ドニ 「バッカス祭」
1920年

≪印象派と象徴派≫のコーナーでは、ドニの「バッカス祭」推し。比較的大きめのキャンバスにドニならではの装飾性と色遣いが楽しく、バッカス(ギリシア神話のディオニュソス)が意味する豊饒と享楽のイメージに溢れています。もとはジュネーブの毛皮やの注文で描いた装飾絵の下絵だそうで、実物は基のままの形では現存していないそうです。

ここでは他にも、モローやルドン、ゴーギャンなどどれも捨てがたく、特にゴーギャンの「馬の頭部のある静物」はジャポニスムの影響も窺わせて興味深いものがありました。

藤島武二 「黒扇」(重要文化財)
1908-09年

≪日本の洋画≫では、やはり藤島武二の傑作「黒扇」。明るい白と対照的な背景や扇の黒のコントラストに力強い筆のタッチ。影になるところに青を入れているのも面白い。画面全体から溢れる美しさと気品は格別で、藤島が長年手元から離さなかったというのも分る気がします。

藤田嗣治 「ドルドーニュの家」
1940年

藤田の「ドルドーニュの家」はフランス南西部のドルドーニュへ疎開していたときに描いた作品。乳白色の室内空間に黒や茶という単色の画面が静謐さとともに物寂しさを感じさせます。階段がゆがんでいたりして、そのバランスも不安な気持ちにさせるのかもしれません。

≪日本の洋画≫のコーナーは一部展示替えがあります。

パブロ・ピカソ 「腕を組んですわるサルタンバンク」
1923年

セザンヌとピカソには一間が与えられています。セザンヌの絵を観て、こんな風に絵を描いていいのだと衝撃を受けたというピカソ。ブリヂストン美術館はピカソ・コレクションも充実してますが、今回出品されている作品の中ではこれが一番好き。明確な輪郭線と抑えた色調。その顔立ちはどこかギリシャ彫刻を思わせます。人物の左側に下書きのような線が見えるのですが、調査によると女性を描いた痕が認められたそうです。

アンリ・マティス 「縞ジャケット」
1914年

≪マティスと20世紀美術≫はマティスやフォーヴィスムの画家を中心のセレクション。マティスもマティスらしい作品がいろいろあったのですが、この「縞ジャケット」に目が惹かれました。フォーヴィスムや晩年の作品のような強い色彩と単純化されたモチーフとも違い、カリカチュアのような線の伸びやかさや色の軽さに、こんな絵も描いていたんだと新鮮でした。

ピート・モンドリアン 「砂丘」
1909年

モーリス・ド・ヴラマンク 「運河船」
1905-06年

モンドリアンの「砂丘」も好きな作品。点描というには最早非現実的な色彩の散らばりが面白く、水平の線で構成されているところにその後のモンドリアンを感じます。ここではヴラマンクの「運河船」もいい。原色の色使いと人や建物の描写が野獣派という名前からくるイメージにしてはかわいすぎます。

ジョルジョ・ルオー 「郊外のキリスト」
1920-24年

ルオーはピエロの絵もキリストの絵もあって、キリストを描いた作品では「裁判所のキリスト」と「郊外のキリスト」が秀逸。擬人化(?)と言っていいのか分かりませんが、何か生きることの辛さや日常の悲哀がしみじみと伝わってきて胸を打たれます。

パウル・クレー 「島」
1932年頃

クレーの「島」もブリヂストン美術館で好きな作品の一つ。一筆書きの抽象的な線と全体を覆うドット。よく見ると色を塗った板の上に砂を混ぜた微細な凹凸があり、そこにまた色が重ねられていたりします。音楽的といったら音楽的。

≪戦後美術≫で一つ選びたいなと思っていたのですが、フォートリエ、ポロック、ザオ・ウーキー、どれも良くて、一つ選ぶのは難しいですね。いずれもブリヂストン美術館ではよく拝見していますが、フォートリエは昨年『ジャン・フォートリエ展』で衝撃を受けた<人質>シリーズと、先頃のISISの後藤さんの事件が重なり、観ていて辛くなりました。

ジャン・フォートリエ 「人質の頭部」
1945年

大好きな美術館がしばらく休館してしまうというのは寂しいですが、またこれらの作品のお目にかかれる日を夢見て、しばしのお別れをしたいと思います。


【ベスト・オブ・ザ・ベスト】
2015年5月17日(日)まで
ブリヂストン美術館にて


もっと知りたいルノワール―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいルノワール―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)


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