2015/06/27

速水御舟とその周辺

世田谷美術館で開催中の『速水御舟とその周辺 大正期日本画の俊英たち』を観てまいりました。

なかなか時間が作れず、ようやく来れたのも会期後半。前期展示を観られなかったのがとても悔やまれます。

本展は、近代日本画を代表する速水御舟の没後80年を記念して、御舟の作品を中心に、御舟と同門の日本画家や御舟一門の作品を展観するというもの。

作品は幅広く全国の美術館から借り受けていて、前後期合わせて215点。一部前後期で入れ替えがありましたが、かなりのボリュームです。

御舟の重要な作品を多く持っている山種美術館の作品が一点も来てないのと、国立の美術館の所蔵作品がちょっと少ないのが残念なのですが、それでも選び抜かれた作品が集まっていて、満足度はかなり高めです。


速水御舟 「菊花図」
大正10年(1921) 個人蔵 (後期展示)

まず目に入るのが、本展のメインヴィジュアルに使われている鮮やかな 「菊花図」。琳派風の金屏風に濃彩で写実的に描かれた色・形さまざまな菊の花。花びらはしっかりと輪郭線で縁取られていて、ことのほか立体感があります。大正10年の院展に出品された20代後半の頃の作品で、思ったより小ぶりの屏風でした。

並びに展示されていた「女二題」は、10ヶ月に及ぶヨーロッパ旅行から帰国後に描かれた作品。二題ともモデルは御舟の妻で、着物の色や柄、髪型、体の向きなどを対照的に描いています。 「女二題」は下図もあって、比較して観られるのもいい。

速水御舟 「女二題」
昭和6年(1931) 福島県立美術館蔵


第1章 安雅堂画塾-師・松本楓湖と兄弟子・今村紫紅との出会い

師で歴史画の大家・松本楓湖の作品をはじめ、楓湖の画塾に通っていた10代の頃の御舟や、御舟と同日に門を叩いたという小茂田青樹、また兄弟子・今村紫紅の初期作品など、なかなか興味深い作品が並んでいます。楓湖は歴史画を得意としたとはいえ、画塾では大和絵や狩野派、円山四条派、琳派など、さまざまな流派、古典の粉本の模写が中心だったといいます。御舟の「北野天神縁起絵巻」と「病草紙」の模写の完成度の高さといったら。


第2章 赤曜会-紫紅と院展目黒派

赤曜会は今村紫紅を中心に結成された若手画家の研究グループ。同じ画塾に紫紅や御舟、青樹といった後の近代日本画を代表する若き俊英たちがいたという偶然もスゴイのですが、歴史画の楓湖の下から、形髄化しつつある日本画からの脱却を目指し新しい日本画を模索するという動きが生まれたというのがまた面白い。楓湖は放任主義だったといいますから、あまり縛られてなかったのかもしれないですね。赤曜会は印象派の画家を真似て戸外で写生したり、フランスのアンデパンダン展のように屋外にテントを張って展覧会を開くなど、当時としてはかなり斬新なことをしていたようです。

今村紫紅 「蓬莱郷」
大正4年(1915) 川越市立美術館蔵

紫紅では、インドの生活風景を描いたエキゾチックな双幅の掛軸「水汲女・牛飼男」が面白い。右幅にはオウムが、左にはリスがアクセントになっているのもユニーク。紫紅らしい新南画の「蓬莱郷」も良いですね。「近江八景」の小下絵もあって、すでに完成されたような出来栄えにビックリ。

牛田雞村 「滋賀の里」
大正9年(1920) 滋賀県立美術館蔵

御舟では濃彩の「山茶花」、青樹では「薊」が秀逸。大正期の近代日本画らしいモダンな雰囲気があります。赤曜会の黒田古郷、小山大月、牛田雞村はたぶん初めて観る画家。とくに牛田雞村の丸っこい輪郭の、鄙びた農村や山村の風景画が好き。小山大月も「芍薬」と「朝顔」も印象的。


第3章 速水御舟と小茂田青樹

終世のライバルだった御舟と青樹の作品を紹介。似たモティーフ、同じような構図など、2人の作品を敢えて並べて比較展示しているものもあって興味深かったです。御舟の「山茶花に猫」と青樹の「猫にオシロイ花」、御舟の「仲秋名月」と青樹の「月涼」といった具合に、御舟が猫を描けば青樹も描き、青樹が月を描けば御舟も描きと、お互いに影響しあっているのか、仲が良いのか。まあ、よくある構図ではあるのですが。

速水御舟 「山茶花に猫」
大正10年(1921) 西丸山和楽庵蔵

山種美術館や東京国立近代美術館が持っている御舟の代表作と呼ばれるものが来ていない反面、これまであまり観たことがないような魅力的な作品や幅広い画業に触れられたのは本展の収穫。「白磁の皿に柘榴」の写実性の高さや「晩冬の桜」の詩情性は目を惹きます。渡欧で目にした西洋の風景を描いた『遊欧印象小作展』の一連の風景画も面白い。

速水御舟 「白磁の皿に柘榴」
大正10年(1921) 長谷川町子美術館蔵

速水御舟 「晩冬の桜」
昭和3年(1928) 福島県立美術館蔵

御舟ほどの出品数ではありませんが、小茂田青樹も充実しています。青樹も山種や東近美でよく見かける画家ですが、ここまでまとまった形で観たのは初めて。御舟に画風が近い作品もありますが、詩的な感じやモダンなセンスはこの人ならではのもの。白眉は墨の濃淡だけで月夜の葡萄の木を繊細に描いた「秋意」。「ポンポンダリア」や大正ロマン風の「薔薇」もいい。

小茂田青樹 「秋意」
大正15年(1926) 川越市立美術館蔵


第4章 御舟一門 高橋周桑と吉田善彦

御舟は基本的に弟子を取らなかったそうですが、縁あって御舟に師事した2人の画家を紹介。どちらも画風は御舟に近く、高橋周桑の「白木蓮」や高橋周桑の「寧楽の杜」あたりは御舟の影響を強く感じます。吉田善彦の「苔庭」なんて御舟の「翠苔緑芝」を思い起こさせますね。

吉田善彦 「苔庭」
昭和22年(1947) 世田谷美術館蔵

速水御舟の没後80年の展覧会ということなのだから、できればもう少し代表作と呼べるものが集まっていれば…と思わなくもありませんが、全国津々浦々の美術館の知られざる御舟作品に触れられたのは正直有難い。小茂田青樹や赤曜会の画家の作品などがいろいろ観られたのも良かったなと思います。


【速水御舟とその周辺 大正期日本画の俊英たち】
2015年7月5日まで
世田谷美術館にて


もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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