2016/01/10

鎌倉からはじまった。 PART 3: 1951-1965

神奈川県立近代美術館鎌倉館で開催中の『鎌倉からはじまった。 PART 3: 1951-1965』を観てまいりました。

本展の終了をもって閉館となる“カマキン”こと鎌倉近代美術館。近代美術館としては東京国立近代美術館よりも早い1951年(昭和26年)に開館し、日本で最も歴史のある近代美術館だったわけです。

鶴岡八幡宮との借地契約の期間満了と建物の耐震問題から、今回残念ながら閉館してしまうのですが、いつも参拝客で賑わう鶴岡八幡宮の喧騒から離れた静かな空間と、坂倉準三設計の雰囲気のある佇まいは、失うにはつくづく惜しすぎると思います。

さて、昨年の4月からはじまった“カマキン”最後の展覧会。なかなか行きそびれて、やっとのことでお別れに行くことができました。休日はかなり混んでいるとの情報があったので、平日に休みを取り、早い時間に伺ってきました。


今回のPART 3は開館当初の約14年間の歩みを追っています。開館した昭和26年といえば、まだまだ戦争の影を引きずっている時代。そんな中、少しずつ生活や心に一息つく余裕ができはじめた頃かもしれません。最初の展覧会『セザンヌ、ルノワール展』のポスターなど資料が展示されていましたが、長い間、西洋画を鑑賞することすら許されなかった人々にセザンヌやルノワールがどんなに輝いて見えたことでしょう。

コレクション第一号として展示されていたのがアンドレ・ミノーの『コンポジション』。開館当初は所蔵品すらなかった美術館がようやく購入できたこの作品に、当時の関係者の思いがどれだけ込められていたか。

萬鉄五郎 「日傘の裸婦」 1913年

展示構成は基本的に日本の洋画家で、戦後のものだけでなく戦前の作品からも多く出品されています。

茅ヶ崎に在住していたという萬鉄五郎が3点。キュビズム的な「裸婦」もいいけど、フォーヴィスムに影響された「日傘の裸婦」が面白いですね。日本髪の女性が裸で日傘をさすという構図も奇異ですが、敢えてバランスを悪くしてるのか、美人とはいいがたい裸婦像がユニークです。佐伯祐三や梅原龍三郎もいくつかの時代の作品があって、少ないながらも画風の変遷が分かります。

高村光太郎の珍しい油彩画も。彫刻は拝見する機会がよくありますが、洋画はセザンヌぽい感じがしました。妻・智恵子がセザンヌに傾倒していたという話があるので、それも関係しているのでしょうか。

古賀春江 「窓外の化粧」 1930年

後期印象派やフォーヴィスムといった20世紀初頭の西洋画の流れを受けたものとしては、川上涼花、中村彝、島崎鶏二、今西中通などが印象に残りました。藤島武二に師事したという内田巌の「少女像」も個人的にはかなり好きです。

三岸好太郎も2点あって、暗く重い色調と白い色調という対照的な作品。ともにモダニズムやシュルレアリスム以前のもので、こういう作品も描いていたんだと初めて知りました。シュルレアリスムといえば、古賀春江。青空から落下するパラシュートとビルの上で踊るモダンガール。昭和初期の年のイメージをモンタージュした古賀春江らしい一枚ですね。面白い。

松本竣介 「立てる像」 1942年

松本竣介は4点。横浜の橋を描いた作品より直線的な線の印象が強い「橋(東京駅裏)」、世田谷美術館の『松本竣介展』以来の再会となる「立てる像」。亡くなる前年に描いた、赤く塗りつぶしたカンヴァスに黒い輪郭線による「少女」が他とは違うタッチで興味深い。

同時代では靉光、また松本俊介と同郷の同級生だったという舟越保武の彫刻なども。

会場後半には、ブリヂストン美術館の『描かれたチャイナドレス』で衝撃を受けた久米民十郎があって、こんな戦後の抽象画のようなイメージの作品を1910年代に描いていたのかと驚きました。

戦後の作品では、一見抽象画のようだけど目を凝らすと死体が転がっているようにも見える麻生三郎の「死者」、ベトナム戦争を批判したという糸園和三郎の「黒い水」、また野見山暁治や勝呂忠などが印象的でした。

麻生三郎 「死者」 1961年

もちろん彫刻作品や立体作品も多く、別館も合わせるとかなりの点数が見れます。歴史があるだけに、日本の近代洋画も含め良質のコレクションが揃っているなと感じました。“鎌近”のコレクションは葉山の神奈川県立近代美術館に引き継がれるようですが、“鎌近”で観てこそのコレクションだと思います。残り1か月を切り、混雑が予想されますが、閉館前に行っておかないときっと後悔しますよ。



【鎌倉からはじまった。 PART 3: 1951-1965】
2016年1月31日(日)まで
神奈川県立近代美術館 鎌倉館にて


鎌倉からはじまった。「神奈川県立近代美術館 鎌倉」の65年鎌倉からはじまった。「神奈川県立近代美術館 鎌倉」の65年


空間を生きた。 ―「神奈川県立近代美術館 鎌倉」の建築1951-2016空間を生きた。 ―「神奈川県立近代美術館 鎌倉」の建築1951-2016

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