2016/02/14

福井県立美術館所蔵 日本画の革新者たち展

横浜のそごう美術館で開催中の『福井県立美術館所蔵 日本画の革新者たち展』を観てまいりました。

そごう美術館では全国の美術館の名品を紹介するシリーズをスタートするそうで、その第一弾に選ばれたのが福井県立美術館。個人的には岩佐又兵衛の作品目当てで観に行ったのですが、日本美術院の面々など近代日本画の作品が予想外に充実していて驚きました。

コレクションの成り立ちはよく知りませんが、岡倉天心の父が福井藩士だったという縁もあって、天心と関係の深い日本美術院の画家の作品を多く有しているようです。天心自身は生まれは横浜とのことなので、所縁の地での展覧会といえるのかもしれません。



戦後の日本画

まずは戦後の日本画コレクションを拝見。
最初に加山又造の「駱駝と人」があって、背景は遺跡でしょうか、『アラビアのロレンス』的なイメージを喚起させます。シュルレアリスムや未来派ぽい造形で動物を描いた一連のシリーズのひとつで、又造は“浪漫的甘美さ”と言い表したようです。

大きな横長の画面に黒々と描かれた横山操の「川」が圧巻。小栗康平の『泥の河』を彷彿とさせる民家が密集した川沿いの町を描いた絵で、なにか物寂しさというか、戦後の貧しさが伝わってくるようです。この時代の横山は黒を基調とした躍動感のある作品をいくつも残していますが、その独特の黒い色は、高価な絵具を買えないので銭湯の煙突掃除で出た煤を貰い顔料に混ぜて描いたといいます。

 
横山操 「川」 昭和31年(1956)

印象的だったのが横山操に師事したという米谷清和の「夏」。そぞろ歩くお年寄りたちを描いた絵で、横山操とは180度反対のほのぼのとした作品。おばあちゃんの腰の曲がり方といい、ガニ股具合といい、よたよた歩く姿がたまらないですね。


岡倉天心ゆかりの画家たち

日本美術院関係の作品だけで25点(前期展示含まず)あって、ボリュームもさることながら、なかなかの優品揃い。これだけのコレクションを貸し出してしまってもいいぐらい福井県立美術館は優れた近代日本画をコレクションしているということなのでしょう。

狩野芳崖 「伏流羅漢図」 明治18年(1885)

近代日本画のはじまりは芳崖。狩野派というより牧谿的な湿潤な空気を感じる「柳下放牛図」や、劇画的なタッチと独特の色彩感が新しい「伏流羅漢図」、それぞれに芳崖の確かな技術と独創性を見ることができます。

雅邦も雅邦らしいしなやかで強い線描と明暗をつけ立体感を出した水墨の表現が素晴らしい。大観は大観の、春草は春草の、観山は観山の、それぞれの特徴が表れた“らしい”作品が並びます。

橋本雅邦 「天保九如図」 明治30年(1897)頃

大観は「海-月あかり」、「杜鵑」という朦朧体を大胆に活かした作品があって、とりわけ「海-月あかり」は荒れた海なのに静寂さに包まれていて強く惹かれました。とても現代的というか、明治時代にこんな日本画があったことにも驚きます。大観が渡米するとき船上から見た光景ではないかともいわれているそうです。

横山大観 「海-月あかり」 明治37年(1904)

菱田春草 「海辺朝陽」 明治39年(1906)

春草では「海辺朝陽」はすごくいい。浜辺と海と朝陽の三重奏。朦朧体の淡いタッチと暖色の柔らかな色彩が早朝の穏かで静かな海の光景を見事に表現しています。春草も大観とともに渡米し、ヨーロッパを回っているので、海外で見た海の景色なのかもしれません。ホイッスラーに似た作品(「青色と銀色のハーモニー」)があるので、もしかしたらホイッスラーの絵に感化されたのかもしれません。

本展の目玉にもなっている「落葉」は東京国立近代美術館の『菱田春草展』でも強く印象に残った作品。晩秋の代々木を描いたという話ですが、明治時代の代々木はまだ武蔵野の光景が広がっていたんですね。

ここでは春草の「落葉」のほかに、大観、下村観山、木村武山のそれぞれ六曲一双の大型の屏風がずらーっと並んでいて正に壮観。どれも持ち味があっていいのですが、個人的には寿老人と玄鹿を描いた観山の「寿星」と林和靖と鶴を描いた武山の「林和靖」に惹かれました。

菱田春草 「落葉」 明治42~43年(1909-10)

ほかにも、セザンヌに傾倒していたという奥村土牛の「晴日」や、その土牛を描いた「O氏像」、活き活きした群像表現が魅力的な今村紫紅の「日蓮辻説法」など印象的な作品が多くあります。その中でも満開の桜を俯瞰で描き、花見する人や散策する人を見下ろす構図が面白い川端龍子の「花下行人」は好きですね。歩く人が軍服だったりと時代を感じます。

川端龍子 「花下行人」 昭和15年(1940)


岩佐又兵衛

そして又兵衛。「三十六歌仙図」と「和漢故事説話図」が来ているということで観に来たわけですが、旧金谷屏風の「龐居士図」が出ているのは知らなかったのでビックリ(あまり事前に調べないものですから…)。かなり得した気分になりました。ほかの旧金谷屏風にも共通した巧みな線描と淡い色彩のバランスが見事です。

岩佐又兵衛 「龐居士図」

「三十六歌仙図」はもとは画帖で、現在は軸装された22図だけが残っているとか。本展ではその内、12図が出品されています。又兵衛はたびたび三十六歌仙図を描いていますが、本作は福井時代前期の作だそうです。男性も女性も顔はいわゆる豊頬長頤で、的確で繊細な線や着物の文様、金銀泥も使った彩色など期待に違わぬ素晴らしさ。さすがに12図も並ぶと見応えがあります。

岩佐又兵衛 「三十六歌仙図 三条院女蔵人左近」 江戸時代・17世紀

岩佐又兵衛 「三十六歌仙図 紀友則」 江戸時代・17世紀

「和漢故事説話図」は全12点。展示替えの関係で後期展示では8図のみしか拝見できませんでしたが、これも傑作。こちらは福井時代後期、円熟期の作品というだけにドラマティックな描写や豊かな人物表現、緩急自在な巧みな筆致は言うことなし。又兵衛の古浄瑠璃絵巻を彷彿とさせるところもあったりして、とても興味深いものがあります。

岩佐又兵衛 「和漢故事説話図 近藤師経と寺僧の乱闘」 江戸時代・17世紀

岩佐又兵衛 「和漢故事説話図 浮舟」 江戸時代・17世紀

いま、デパート系の美術館で一番企画力があって満足度の高い展覧会をしてくれるのが、ここそごう美術館だと思います。これからはじまる日本各地の美術館シリーズ、とても楽しみですね。


【福井県立美術館所蔵 日本画の革新者たち展】
2016年2月16日まで
そごう美術館にて


岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品

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