2016/05/07

春の優品展 -恋歌の筆のあと-

五島美術館で開催中の『春の優品展 -恋歌の筆のあと-』を観てまいりました。

先日もツイートしたのですが、今年は絵巻の当たり年なんです。日本四大絵巻と呼ばれる作品が全て公開されるんですが、こんなことまずないし、ほんと奇跡的。

出光美術館では 「伴大納言絵巻」が全巻公開(上巻5/8まで、中巻5/13~6/12、下巻6/17~7/18)され、奈良国立博物館でも 「信貴山縁起絵巻」が全巻一挙公開。「鳥獣人物戯画」も九州国立博物館で今秋公開されることになっています。ちなみに全て国宝。

そしてもうひとつが「源氏物語絵巻」。「源氏物語絵巻」はもとは約10巻本(諸説あり)の絵巻で、現存するのはその内の1/4ぐらい。現在は詞書と絵が切り離され、額装の状態になっています。絵は五島美術館(蜂須賀本)と徳川美術館(尾張徳川本)が所蔵(ほかに断簡が東博に一点ある)していて、それぞれの美術館で毎年公開されています。わたし自身は10年ぐらい前に五島美術館の所蔵品を一度観ていますが、今回ゴールデンウィークに期間限定で公開しているというので、久しぶりに訪問してきました。

五島美術館にあるのは三十八帖「鈴虫」、三十九帖「夕霧」、四十帖「御法」の詞書9面、絵4面。一部に絵具が剥がれていたり、褪色してしまっているところもありますが、「源氏物語」が書かれて100~150年あとに制作されたといわれ、「源氏物語」に最も近い時代の作品として大変貴重です。何しろ現存する「源氏物語」の最古の写本である青表紙本より時代がさかのぼるというのですから。

「源氏物語絵巻(夕霧) 詞書」(国宝)
平安時代後期・12世紀 五島美術館蔵

詞書は金銀箔や裂箔などをふんだんに使った贅沢なもので、銀箔・銀泥は黒化してしまっていますが、やまと絵風の模様が描かれた料紙もあり、大変華麗で、相当お金をかけて一大プロジェクトして制作されたことが想像できます。

登場人物の顔貌はどれも似ていて、典型的な引目鉤鼻。感情表現は一切ありません。物語を知っているとか、着ているものや坐っている場所などで類推しないと誰が誰だか分からないでしょうね(わたしはよく分かりません)。衣服はかなり丁寧に描きこまれていて、また屏風や襖絵にやまと絵的な山並みが描かれていたり、柩や硯箱に細かな文様が施されていたり、細部まで手が込んでいます。

それぞれの絵の描法や色彩などを詳細に調べて制作した復元模写もありますが、色がどうしてもクリアーすぎて、また頭の中に浮かべる色彩のイメージと少し異なっているので、あまり風雅な味わいはありません。あくまでも参考程度でしょう。

源氏物語絵巻(夕霧)(国宝)
平安時代後期・12世紀 五島美術館蔵

第1会場は五島美術館のコレクションの中から恋歌の筆跡や歌物語の絵画を集めた展覧会で、和歌集の古筆切や歌仙絵、屏風絵など約50点が展示されています。書が読めなくても、和歌と現代語訳が印刷された参考資料が無料で配布されてるので、どんなことが書かれてるのか読みながら回れるから安心。

伝・紀貫之筆 「高野切(第一種)」(重要文化財)
平安時代中期・11世紀 五島美術館蔵

万葉集の最も古い写本の断簡「栂尾切」や古今和歌集の現存最古の写本の断簡「高野切」のほか、後撰和歌集や拾遺和歌集などを書写した作品、また古筆手鑑などもありますし、三蹟の藤原行成など和様の書を愉しむこともできます。

歌仙絵では有名な佐竹本と並んで古い遺品という「上畳本三十六歌仙絵」。歌人が上畳に坐わっているところから「上畳本」と呼ばれているそうです。経年劣化か紙が少しくすんでいますが、絵自体ははっきりしていて、やまと絵的な似絵として優れ、格調の高さを感じます。

「時代不同歌合絵」は白描の歌仙絵絵巻の断簡で、歌人が左右に分かれて歌合せの番号や詠んだ歌などが描かれています。同絵巻の東博本を観たことがありますが、こちらも同様に硬質の細い線で描かれていて、それでいてどこか大らかで雅やかな印象を与える逸品です。

「上畳本三十六歌仙絵 紀貫之像」(重要文化財)
鎌倉時代前期・13世紀 五島美術館蔵

「時代不同歌合絵 伊勢・後京極良経像」
鎌倉時代後期・14世紀 五島美術館蔵

ほかにも宗達・光悦コンビによる新古今和歌集の色紙帖や「伊勢物語」の現存最古の写本や伊勢物語を絵画化した古様の白描絵、「浄瑠璃姫物語」を描いた屏風などが並んでいて、古典の世界にどっぷりつかれます。

なお、徳川美術館所蔵の「源氏物語絵巻」は今年の暮れに公開されるようですね。5年に一度企画されている五島美術館と徳川美術館の所蔵品の合同展示は次回は2020年。今度は五島美術館で開催されます。


【春の優品展 -恋歌の筆のあと-】
2016年5月8日(日)まで
五島美術館にて


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