2016/11/12

円山応挙 - 「写生」を超えて

根津美術館で開催中の『円山応挙 「写生」を超えて』を観てまいりました。

応挙というと、3年前に愛知県立美術館でまとまった回顧展がありましたが、東京では6年前に三井記念美術館で開かれた『円山応挙 - 空間の創造』以来ではないでしょうか。

今でこそ若冲だ蕭白だ其一だと広く注目が集まり、人気絵師の展覧会となると長蛇の列ができる江戸絵画ですが、江戸時代から長きにわたりダントツの人気と評価を誇る絵師といえば応挙なのです。

応挙の画風と技術は日本の絵画史に革命を起こし、円山派の祖として江戸絵画の主流となっただけでなく、先日の『鈴木其一展』でもその表現を認めることができるなど、多大な影響を及ぼしました。

本展では前後期合わせ約50点の作品により、「写生」に重きを置きながらも、それを超えて応挙が目指したものを探っていきます。根津美術館や国内の美術館、所縁のある寺院の所蔵作品に加え、個人蔵の作品が多いのも特長。優品が揃い、個人的に初めて観る作品も多く、少ない点数ながらも大変充実したものになっていました。


第一章 応挙画の精華

最初の2曲1隻の「芭蕉童子図屏風」にいきなり惹きこまれます。丁寧な筆致で描かれた童子に対し、芭蕉は水墨の味わい。子どもたちは目がクリクリしていて愛らしく、楽しげに遊ぶ様子がよく表れています。

中国の山水画を思わす「雨中山水図屏風」も印象的です。雨風に煽られる木々、波立つ水面。応挙の他の山水画にも共通しますが、こうした作品を観ると、応挙は呉派を手本としていたんだろんなと感じます。桃源郷的なイメージの「仙山観花図」も文人画的な趣き。

円山応挙 「西施浣紗図」
安永2年(1773) 個人蔵

「西施浣紗図」は中国春秋時代の美女・西施を描いたもの。近代日本画では女性1人だけを取り上げ、物語の一場面のように叙情的に描く作品はありますが、江戸時代にこうした作品は珍しかったのではないでしょうか。園城寺円満院の門主・祐常の援助を受け、めきめきと腕を上げていったいわゆる円満院時代と呼ばれる頃の最末期の作例といいます。

ほかにも、数ある応挙の孔雀図の中でも傑作とされる三の丸尚蔵館の「牡丹孔雀図」や、池に張る氷や冷たく澄んだ水の表現が冴える「雪中水禽図」 など、どれもなかなかの見応え。

円山応挙 「雨竹風竹図屏風」(重要文化財)
安永5年(1776) 圓光寺蔵(展示は11/27まで)

円山応挙 「藤花図屏風」(重要文化財)
安永5年(1776) 根津美術館蔵

安永年間は応挙が大型の屏風絵や障壁画に挑戦していった時代でもあります。会場の真ん中には6曲1双の「雨竹風竹図屏風」と「藤花図屏風」が並び壮観です。右隻に雨に打たれる竹を、左隻に風に揺れる竹を描いた「雨竹風竹図屏風」は靄に消え入る表現や大気の質感が牧谿の水墨画、ひいては長谷川等伯の「松林図屏風」を思わせ素晴らしい。

「藤花図屏風」は藤の幹を刷毛で大胆に刷き、花房は写実的に、白と青と紫の絵具を油絵のように重ねていて、その考え抜かれた表現方法に唸ります。応挙の数ある作品の中でも装飾的傾向の強い作品のひとつ。

円山応挙 「雪松図屏風」(国宝)
天明6年(1786)頃 三井記念美術館蔵(展示は11/27まで)

応挙唯一の国宝「雪松図屏風」は何度も拝見していますが、こうして「藤花図屏風」と並べて観てみると、縦に直線的な右隻と横に曲線的な左隻という構図が似ていて、「藤花図屏風」や「雨竹風竹図屏風」で確立した空間表現をさらに発展させていることに気づきます。松は輪郭線を用いない付立技法で描かれ、雪は塗り残して地の白で表し、背景には金泥を刷いて金砂子で雪のきらめきを表現するといったように、とても技巧的です。

円山応挙 「写生図巻」(重要文化財)
明和7年〜安永元年(1770-72) 株式会社千總蔵

となりの部屋には、応挙の初期作品や写生図などが中心に展示されています。応挙はもとは玩具商として“めがね絵”を制作していて、そのかたわら狩野派について絵を学んだといわれていますが、ここではその“めがね絵”や20歳代前半の作という水墨画、また光琳や渡辺始興の影響があるという作品や沈南蘋を模したとされる作品、文人画的な真景図などが並んでいて、応挙がさまざまな画法を研究してたことを知ることができます。

そして写生のまめさ。応挙の写生図はいくつか残されていて、展覧会などで時々見かけますが、「写生図巻」は写生図でありながら重文指定という逸品。写生をさらに清書したもので、木の葉の名前や季節なども書き添えてあって、ちょっとした図鑑のようになってるのが凄い。博物誌的な面白さもあります。

円山応挙 「七難七福図巻」(重要文化財)
明和5年(1768) 相国寺蔵

いつもなら根津美術館の特別展は1階の会場だけで終わりですが、今回は2階にも本展の一番の見どころともいうべき「七難七福図巻」が展示されています。まだ30代の応挙が手掛けた3巻の絵巻で、上巻には地震や火事、海難などの天災や禽獣による害を、中巻には盗賊や追い剥ぎ、情死、獄門などの災いや刑罰を、下巻には貴族の祝宴などの福が描かれています。人々の動きや表情の描写が徹底していて、強いリアリズムを感じます。中には又兵衛かと思うような凄惨な場面もあり、応挙らしい丁寧で精彩な画面の中に生々しい描写が展開し興味深い。


大きな美術館で開かれる展覧会にように決して出品数は多くありませんが、厳選された傑作が集まっています。応挙の「写生」にスポットを当てた展覧会は過去にもありましたし、語られがちなポイントではありますが、応挙がただの“写生命”の絵師ではなかったことが良く分かる展覧会でした。


【開館75周年記念特別展 円山応挙 「写生」を超えて】
2016年12月18日(日)まで
根津美術館にて


円山応挙: 日本絵画の破壊と創造 (別冊太陽 日本のこころ)円山応挙: 日本絵画の破壊と創造 (別冊太陽 日本のこころ)

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