2016/11/07

月 - 夜を彩る清けき光

松濤美術館で開催中の『月 - 夜を彩る清けき光』を観てまいりました。

日本画や浮世絵から、美術工芸品や武具まで、月をテーマに作品を揃えた展覧会。去年のサントリー美術館の『水 神秘のかたち』を思い出します。

古来より日本人は「月」とどれだけ密接に繋がり、「月」への嗜好をどのように形に表してきたのか、【名所と月】【文学と月】【信仰と月】いったテーマを通して月に因んだ作品を展観していきます。

ちょっとノーマークだったのですが、ツイッターでの評判も良く、後期が始まったタイミングで訪問してきました。


会場を入ってすぐのところに展示されていたのが久隅守景の「瀟湘八景図」。去年のサントリー美術館の『久隅守景展』でも紹介されていた作品で、瀟湘八景の8つの画題を一幅に巧みに配した構図が見事です。狩野派らしい楷体画の中にも月夜の柔らかな風情が出ていて素晴らしい。舟に乗る人々や市に集う人々など、彼らの生活ぶりが浮かぶ情景描写はさすが守景という感じがします。

久隅守景 「瀟湘八景図」
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵(展示は11/10まで)

以前、東京富士美術館の『江戸絵画の真髄』で観て感動した「武蔵野図屏風」にも再会しました。初期やまと絵の画題を、左隻の富士と右隻の月、上部の山と下部の秋草というシンメトリックな構図にまとめ、琳派も思わす洗練された印象を与えます。月が空に描かれていないのは「武蔵野は月の入るべき山もなし、草より出でて草にこそ入れ」という古歌に拠っているからだそうです。

「武蔵野図屏風」
江戸時代・18世紀 東京富士美術館蔵

『源氏物語』を描いた作品がいくつかあって、優品も多くありました。中でも一際目を引いたのが、中幅に湖面に映る月を眺めた紫式部、右左幅に春の吉野と秋の竜田川を描いた狩野寛信(融川)の「紫式部吉野竜田川図」。中幅は、紫式部が石山寺から琵琶湖の湖面に映る八月十五夜の月を眺めていたら物語が浮かんだという源氏物語起筆の伝説を描いたものといいます。勝川春章の肉筆浮世絵の「雪月花図」も同じ画題で、左幅に清少納言、中幅に紫式部、右幅に小野小町の三幅対。こちらは出光美術館の『勝川春章と肉筆美人画』にも出品されていましたね。

ほかにも、野々宮を照らす月と遠く眺める源氏を描いた「源氏物語図屏風 賢木」や、国宝「源氏物語絵巻」の現状模写作品など、『源氏物語』に描かれた月を紹介しています。

勝川春章 「雪月花図」
江戸時代・17世紀 摘水軒記念文化振興財団蔵

月下美人や月に兎、月に雁といった月が描かれる画題も並んでいて、目を愉しませてくれます。仏画が前後期で一点ずつというのが、スペースの関係もあるのでしょうが、物足らない気がしました。後期は称名寺の仏画の「月天」が飾られていて、両手でかかげた月に兎が描かれているのが面白い。月天は月や月光を神格化したもので十二天の一つ。

岳翁蔵丘 「山水図」(重要美術品)
室町時代・15−16世紀 佐野美術館蔵

個人的に印象深かったのが岳翁蔵丘の「山水図」。周文を思わせる整然とした構図と謹厳かつ細緻な筆致が素晴らしい。四条派の呉春(玉潾との合作)の「月竹図」と松村景文の「月に桜花図」はともに月を外隈で描いていたのが印象的。鈴木其一の短冊大の「草花図」は小品ながらも其一らしい美しい逸品。

葛飾北斎 「雪月花 淀川」
天保3年(1832)

浮世絵は各コーナーに広重や北斎、国芳など、月に因んだ作品が展示されていましたが、見ものは徳川美術館所蔵の月岡芳年の「月百姿」。展示は6点ぐらいだけでしたが、珍しい画帖での展示で、「月百姿」は時折見かけますが、100点全て揃った画帖というのは初めて見た気がします。

月岡芳年 「石山月(月百姿)」
明治22年(1889)

2階の展示室は主に蒔絵調度、陶磁器、刀装具や甲冑など、月を意匠に施された作品が展示されています。日本人にとって「月」とは特別の存在なんだなということをあらためて思い知りました。

「萩薄蒔絵硯箱」
江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵

美術館を出たら、暮れる空に浮かんだ三日月も美しく、月の風情を感じながら帰路につきました。


【月 - 夜を彩る清けき光】
2016年11月20日(日)まで
松濤美術館にて


日本造形史―用と美の意匠日本造形史―用と美の意匠

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