2016/12/24

京都で2つの伊藤若冲展

今年の日本美術の一番の話題といえば、伊藤若冲。東京都美術館で開催された『若冲展』をはじめ、若冲の生誕300年を記念した展覧会が各地でいくつも開かれたり、関連書籍も相次いで刊行されたり、どれも予想以上の盛り上がりを見せました。

この1年で一気にメジャー級の絵師として世間に浸透し人気者になった若冲。そんな若冲イヤーの最後を飾る2つの展覧会が京都で開かれていたので観に行ってきました。


まずは京都国立博物館で開催中の『生誕300年 特集陳列 伊藤若冲』。こちらは特別展ではなく平常展の“特集陳列”という括り。だから料金も平常展の入館料だけとお得です。

京博2階の平成知新館の2F-3~2F-5を使っての展示で、28点のみと数としては小規模。どちらかというと水墨中心ですが、「果蔬涅槃図」や「石峰寺図」、「乗興舟」、「石燈籠図屏風」、「蝦蟇河豚相撲図」、「百犬図」など代表作や人気作もあって、少ない出品数ながらも意外と充実していました。40歳前後の早い時期の作品から最晩年の作品まで、若冲の画風の変遷なども分かりやすく解説されていて、かなり丁寧な展示になっていたのも良かったと思います。

伊藤若冲 「果蔬涅槃図」
江戸時代・18世紀 京都国立博物館蔵

伊藤若冲 「蝦蟇河豚相撲図」
江戸時代・18世紀 個人蔵

初公開の作品も数点あり、中でも「六歌仙図押絵貼屏風」は小野小町が最高です(観てのお楽しみ)。こんな描き方をするのはやはり若冲ぐらいしかいないよなと思わず笑ってしましました。大根の上に乗って葉をついばむ「大根に鶏図」も若冲らしくて面白い。また、個人的に初めて観る作品も多く、とりわけ彩色画の「鶏頭蟷螂図」は独特のエグ味が秀逸。鶏頭の奇妙な造形とその色味は数ある若冲作品の中でもかなり奇想の部類に入るのではないでしょうか。

伊藤若冲 「鶏頭蟷螂図」
寛政元年(1789) 個人蔵

ちなみに京博では、同時開催で『新春特集陳列 とりづくし-干支を愛でる-』(1/15まで)のほか、『特集陳列 皇室の御寺 泉涌寺』(2/5まで)や『大航海時代と日本の蒔絵』(1/22まで)などもあって、それぞれに見どころがいっぱいです。

『皇室の御寺 泉涌寺』では、江戸狩野から分派した鶴澤派の鶴澤探索の「孔雀図屏風」が傑作。狩野派らしい樹木や岩の描写に応挙を思わす孔雀、何より青や白を多用した大胆な色使いが面白い。新春特集陳列の『新春特集陳列 とりづくし』では京狩野の狩野永敬の屏風や雪舟の花鳥図屏風で唯一真筆とされる「四季花鳥図屏風」が出ていて、なかなか良かったと思います。

『大航海時代と日本の蒔絵』もオススメ。南蛮漆器と呼ばれる安土桃山時代に南蛮人からのオーダーで制作された蒔絵工芸の特集展示で、南蛮文化の展覧会などでは時折見かけたことがありますが、ここまでの数を一堂に観たのは初めて。どれもクオリティが高く、そして状態がいい。日本的な蒔絵というより櫃や箪笥、酒器などいかにも南蛮人の生活をイメージできるものばかりで、聖書を載せる書見台など当時のキリスト教文化に触れられるものもあり興味深かったです。鎖国やキリシタン禁制もあったのに、よくこういうものが残っていたと驚きます。螺鈿や花鳥柄など細工も細やかで、超絶技巧ファンにもオススメです。

雪舟 「四季花鳥図屏風」(重要文化財)
室町時代・15世紀後半 京都国立博物館蔵

さて続いて、相国寺承天閣美術館で開催中の『伊藤若冲展 後期』へ。若冲の出品数は関連資料も入れると約40点弱。そのほか、若冲と関わりの深い梅荘顕常(大典顕常)が賛を寄せた円山応挙や池大雅などの作品も展示されています。

こちらにも初公開の若冲が複数あって、まあよく次から次へと出てくるもんだと思います。初公開の内ひとつは仙厓が賛を書いた「蕪の図」で、これがまた傑作。若冲のゆるい絵に仙厓のゆるい字で「若冲老いぼれて俄かにこの図を描いた」ともちろん仙厓流のユーモアですが酷いことが書いてあって笑えます。

見ものは、若冲の水墨画の傑作中の傑作、鹿苑寺大書院旧障壁画・全50面の展示。今年の若冲展でも旧障壁画の一部が出品されましたが、本展ではその障壁画全てが展示されているだけでなく、「葡萄小禽図」と「月夜芭蕉図」は原寸大で再現された中に展示されており、実際の空間をイメージしながら若冲の作品を味わうことができます。寺院の障壁画の典型的なパターンを打ち破る異色性=若冲らしさを感じられ、同時に若冲が真摯に取り組んでいる姿も見られ、大変素晴らしい障壁画でした。これが観られただけでもわざわざ京都まで行った甲斐があるというものです。

伊藤若冲 「鹿苑寺大書院旧障壁画 竹図襖絵」(重要文化財)
宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵

伊藤若冲 「鹿苑寺大書院旧障壁画 葡萄図襖絵」(重要文化財)
宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵

時間帯によっては混んでるときもあるようですが、わたしが伺ったときはどちらもたいして混んでなく、ゆっくりと鑑賞することができました。やっぱり静かな環境で観たいですもんね。『若冲展』みたいな混雑した中で観るのはこりごりです


【特集陳列 生誕300年 伊藤若冲】
2017年1月15日(日)まで(12/26~1/1は休館)
京都国立博物館にて

【生誕300年記念 伊藤若冲展 後期】
2017年5月21日(日)まで(12/27~1/5は休館)
相国寺承天閣美術館にて


若冲 生誕300年記念 マルチケースBOOK (TJMOOK)若冲 生誕300年記念 マルチケースBOOK (TJMOOK)

0 件のコメント:

コメントを投稿