2016/04/25

若冲展

東京都美術館で開催中の『生誕300年記念 若冲展』に行ってきました。

さまざまな雑誌やテレビで特集が組まれ、今やアートファンに限らず、猫も杓子も若冲状態。肩肘張らずに楽しめるポップさやいい具合に力の抜けたユーモラスさ、思わず凝視してしまう驚異の超細密画は取っつきにくい日本画の敷居を低くし、多くの人の関心を集めてるのでしょう。

これまでも若冲の展覧会はたびたび開催されてきましたが、実は若冲単独の展覧会は東京では初めて。出品数は90点ぐらいなので過去の若冲展に比べて決して多くありませんが、生誕300年のメモリアル・イベントとあって厳選された代表作が集まっています。どうだ!これが若冲だ!みたいなノリの展覧会なので、若冲ビギナーからいろいろ観てきた若冲ファンまで圧倒されること必至です。

会場の東京都美術館はロビー階(地下1階)から2階までの3フロアー。1階(2フロアー目)に本展の目玉である「釈迦三尊像」と「動植綵絵」を展示し、ロビー階と2階にそれぞれ若冲の他の代表作を並べるという構成になっています。


画遊人、若冲(1)

ロビー階は若冲の軸物や襖絵などが中心。本展は作品解説が一切ないので分かりづらいと思いますが、会場入ってすぐのあたりは「隠元豆・玉蜀黍図」や「糸瓜群虫図」、「雪中雄鶏図」など若冲30代から40歳前後の比較的初期の作品が並んでいます。「動植綵絵」に比べるとまだあっさりとしてますが、それでも野菜や虫、葉の虫食いなど既に若冲らしさはありますし、自然の写実的な形態や造形感覚、細部への描写のこだわりといった後の作品と共通する部分が早くも見られます。「牡丹・百合図」や「花卉雄鶏図」など南蘋派や中国絵画の強い影響を受けた作品もこの時期ならでは。

伊藤若冲 「糸瓜群虫図」
江戸時代(18世紀) 細見美術館蔵 (展示は5/8まで)

そばには鹿苑寺大書院の障壁画のうち4作品が紹介されています。古い記録は分かりませんが、少なくとも近年の展覧会に限っては関東初出品かと。鹿苑寺大書院は金閣寺の池を挟んで東側にある方丈で、障壁画は「動植綵絵」と重なる時期に制作されたものといいます。水墨ですから味わいは異なりますが、重文にも指定されてる若冲を代表する水墨障壁画です。ただ印象が地味なのか、ここは人だかりもなく、みなさん素通り。いい作品なのにね。

伊藤若冲 「鹿苑寺大書院障壁画葡萄小禽図」(重要文化財)
宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵

やはり一般的には若冲は極彩色の作品や超細密描写というイメージなのでしょう。人気の作品の前には2重3重の列ができて、みんなガラスにへばついて観るものですからなかなか列が動きません。

伊藤若冲 「孔雀鳳凰図」
宝暦5年(1755)頃 岡田美術館蔵

今年1月に83年ぶりに発見され、幻の花鳥画と話題になった「孔雀鳳凰図」も見もののひとつ。本展での展示は大正15年を最後に行方不明になって以来初めての一般公開なのだそうです。孔雀と鳳凰の2幅からなり、それぞれ「動植綵絵」の「老松孔雀図」と「老松白鳳図」に酷似していることから、「動植綵絵」に先駆けて制作されたものと考えられています。

ほかにも「梅花小禽図」や「旭日鳳凰図」、「白梅錦鶏図」など、「動植綵絵」の直前もしくは同時期に制作されたとされる作品が多く並んでいて、画題、色彩、図様など「動植綵絵」を彷彿とさせます。緻密とはいっても「動植綵絵」のような常軌を逸する徹底ぶりとまではいかなかったり、色の使い方もおとなしかったりしますが、こうした作品が進化して「動植綵絵」が生まれたことも分かりますし、何より「動植綵絵」がいかに若冲の画技や表現を追求した作品であることも実感します。

伊藤若冲 「花鳥版画 櫟に鸚哥図」
明和8年(1771) 平木浮世絵財団蔵

若冲のアイディアで生まれたという拓版画もいくつか出ています。「乗輿舟」は京博本を一巻まるまる展示。花鳥版画も並んでます。今回の展覧会でちょっと不満なのが水墨画が少ないことですが、「鳳凰之図」や「虻に双鶏図」には若冲の水墨の特徴の一つである筋目描きもよく分かります。


《釈迦三尊像》と《動植綵絵》

1つ上がって、1階はワンフロアーを埋め尽くす「釈迦三尊像」と「動植綵絵」が圧巻。真ん中に「釈迦三尊像」の3幅を並べ、その左右に「動植綵絵」全幅を配すというでパノラマ的な展示構成で、過剰なまでの濃厚さと緻密さに感嘆の声しきりです。

伊藤若冲 「釈迦三尊像」
明和2年(1765)以前 相国寺蔵

「釈迦三尊像」と「動植綵絵」が一堂に会するのは2007年に相国寺承天閣美術館で120年ぶりの“再会”として展示されて以来のこと。東京では「動植綵絵」だけ2009年の『皇室の名宝』(東京国立博物館)で全幅展示されていますが、「釈迦三尊像」と一緒に公開されるのは今回が初めてです。

「釈迦三尊像」は両脇侍に文殊菩薩と普賢菩薩を従えたもので、東福寺伝来の仏画の模本だといいます。 わたし自身は今回初めて拝見したのですが、こうして観ると仏画としての素晴らしさにも驚くのですが、「動植綵絵」と一緒になって本来の一具の姿なんだということも実感できます。そういう意味では大変素晴らしい展示です。

伊藤若冲 「動植綵絵」 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
※会場入って右側に展示されている作品

伊藤若冲 「動植綵絵」 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
※会場入って左側に展示されている作品

「動植綵絵」は30幅ありますが、図様に類似のものが多くあり、対幅を意図して制作されたのではないかという説があります。その組み合わせは確定されていないようですが、本展でも「釈迦三尊像」の右に「老松孔雀図」、左に「老松白鳳図」、次にそれぞれ「薔薇小禽図」と「牡丹小禽図」と類似の図様を左右に呼応するように配置されています。


画遊人、若冲(2)

3フロアー目の2階に上がると、「菜蟲譜」がこれも嬉しい全巻展示。野菜や果物が描かれている前半も虫や両生類が描かれている後半も一気に観られます。『若冲アナザーワールド』や重要文化財指定時の東京国立博物館の特別展示のときも、佐野で修理完了披露展があったときも確か全巻展示ではなかったはずなので、これはじっくり観たいところ。

伊藤若冲 「菜蟲譜」(重要文化財)
寛政4年(1792) 佐野市立吉澤記念美術館蔵

2階は屏風と襖絵が中心で点数は多くないのですが、若冲の代表作といわれる作品がズラリと並んでいて凄いことになってます。「動植綵絵」に棕櫚と鶏を組み合わせたものがありますが、晩年の「仙人掌群鶏図襖絵」はサボテンと鶏で、その取り合わせの妙も面白いのですが、まわりがシンプルな金屏風でゆったりと描かれているせいか、かつての鶏より和やかな感じに見えます。

その裏には打って変わって静かな水墨の「蓮池図」。虫に食われた蓮の葉や枯れた蓮などいかにも若冲らしい。現在は6幅に軸装されていますが、元は「仙人掌群鶏図襖絵」の裏面に描かれていた襖絵だったとされ、今回の展示では「仙人掌群鶏図襖絵」の表裏という本来の形で展示されています。

伊藤若冲 「仙人掌群鶏図襖絵」(重要文化財)
寛政2年(1790) 西福寺蔵

伊藤若冲 「象と鯨図屏風」
寛政9年(1797) MIHO MUSEUM蔵

2008年に北陸の旧家から見つかり話題となった傑作「象と鯨図屏風」ももちろん登場。『若冲アナザーワールド』『蕪村と若冲』でもお目にかかっていますが、勢いよく潮を噴き上げる大きな鯨と高々と鼻を上げる巨象は何度観ても面白いし、海対陸、黒対白の構図も完璧ですし、これぞ若冲という感じです。若冲らしいといえば、「三十六歌仙図屛風」がユニークで楽しいですね。

伊藤若冲 「鳥獣花木図屏風」
江戸時代(18世紀) エツコ&ジョー・プライスコレクション蔵

最後のスペースは、若冲コレクターであるジョー・プライスさんのコレクションが展示されています。自分が初めて若冲に衝撃を受けたのが2006年の『プライスコレクション 若冲と江戸絵画』(東京国立博物館)だったのですが、あれからもう10年になるのですね。ここではプライスコレクションの中から代表的な「鳥獣花木図屏風」や「虎図」、「鷲図」などのほか、ジョー・プライスさんがニューヨークの骨董店で若冲と知らずに初めて購入した記念すべき「葡萄図」も出品されています。

伊藤若冲 「葡萄図」
江戸時代(18世紀) エツコ&ジョー・プライスコレクション蔵

人気絶頂の中での展覧会、しかも1ヶ月の短期開催とあって、開催前から混雑が予想され、初日の夜間開館に勇んで観てきましたが、並ばずに入れたものの館内は大変な混雑でした。1列目で見ようとしなければ割と見られましたが、人気作品や絵巻物は観るのも厳しいので、最低2時間はみておいた方がいいと思います。単眼鏡は必携。一番前で細密画を観るだけでなく、2列目から観るときにも便利です。

2階の最後には物販コーナーがあって、初日には最大1時間の行列もできたといいます。図録と関連本だけなら2階からエスカレーターで降りる途中の1階(2フロアー目)の特設コーナーでも購入できます。


【生誕300年記念 若冲展】
2016年5月24日(火)まで
東京都美術館にて


若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)


若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)


若冲 ぬりえ どうぶつえん: Jakuchu Zoo Coloring Book (小学館アートぬりえBook)若冲 ぬりえ どうぶつえん: Jakuchu Zoo Coloring Book (小学館アートぬりえBook)

2016/04/23

頴川美術館の名品

渋谷の松濤美術館で『頴川美術館の名品』を観てまいりました。

兵庫県西宮にある日本画や美術工芸品を多く所蔵する頴川(えがわ)美術館の名品を紹介する展覧会。東京では30年ぶりの公開だそうです。

出品数は重要文化財4点を含む135点(展示替えあり)。地下1階のフロアーには日本画、2階のフロアーは工芸品、茶道具を中心に墨跡や近代日本画など。名品展と謳うだけあって、なるほど優品揃いです。


まずはやまと絵。
近江の日吉山王社の霊験説話を描いた重文の「山王霊験記」や神於寺の縁起を描いた「光忍上人絵伝断簡」といった鎌倉・室町時代の絵巻がなかなか面白い。「山王霊験記」は比叡山の僧が料理を作ったりしてるんですが、どんな場面だったんだろう。江戸時代の土佐派を代表する土佐光起の「春秋花鳥図」も素晴らしい。色とりどりの花や鳥も美しく、濃青の水の表現がまた金屏風に映え、より華麗で洗練された雰囲気を創り上げています。

土佐光起 「春秋花鳥図」
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)

やまと絵と括ってしまうにはちょっとレンジが広すぎますが、俵屋宗達や尾形乾山といった琳派や、狩野派の英一蝶も並んでます。やまと絵の画題を継承しているということなんでしょう。乾山の円窓の「叭々鳥図」が朴訥とした中にも味わいあるタッチで良かったです。


つづいて漢画・水墨画。
前期展示の白眉は何と言っても能阿弥と伝わる「三保松原図」。風景を広く捉えた構図と湿潤な空気感が見事ですね。この作品に先例があるのか知りませんが、「三保松原図」を観て思い浮かべたのが長谷川等伯の「松林図屏風」と雪舟の「天橋立図」で、空気感は等伯に、構図は雪舟にそれぞれ影響を与えてるんじゃないかと感じました。

「三保松原図」は現在は6幅の掛幅装になっていますが、元は六曲の屏風で、富士山を描いた一隻と合わせて六曲一双の屏風だったと考えられているそうです。一見水墨の屏風に見えるのですが、霞と雲にはうっすらと金泥が使われています。

伝・能阿弥 「三保松原図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)

ここでは式部輝忠の「蓮図」も傑作。室町期の水墨ですが、濃墨と薄墨で蓮の葉の表と裏を巧みに表現していて、宗達も参考したのではないだろうかと思わせるものがあります。

長谷川等雪の「人物花鳥図」も印象的。全12幅の掛軸で前期・後期で半分ずつの展示で、前期の6幅には太公望、豊干禅師、琴高仙人と錦鶏、鷺、山鳥がそれぞれ描かれていました。等雪は等伯の門人・長谷川宗圜の子だそうです。


南画ではなかなかお目にかかれない柳沢淇園があったのも嬉しい。南蘋派らしい濃厚な果物図でいいですね。南蘋派的といえば、中林竹洞の華麗な「花卉双鳩図」も見事。竹洞や山本梅逸の作品は複数あって、南画らしい趣きのある作品が並びます。山田宮常はその竹洞と梅逸の師。ゴージャスな長毛の猫のような「芙蓉麝香猫図」が面白い。

南画では他にも谷文晁や池大雅、椿椿山などもあって、充実したコレクションを感じます。

 
長沢蘆雪 「月夜山水図」(重要美術品)
江戸時代・18世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)

写生画では円山応挙や呉春、松村景文といった円山派、四条派が中心。中には岸駒の「松下猛虎図」のように、応挙の流れは汲むものの写生画という感じはしないものもあります。ここでは応挙の弟子・蘆雪の「月夜山水図」がいい。濃墨と淡墨で近景と遠景を描き分け、満月の夜の雰囲気がよく出ています。

長次郎 「赤楽茶碗 銘 無一物(中興名物)」(重要文化財)
桃山時代・16世紀 頴川美術館蔵

2階会場は工芸・茶道具が中心。ちょうど伺った日は暴風雨で帰るに帰れなかったのですが、たまたま頴川美術館の元館長で現理事の林屋氏の講演があったので折角なので拝聴。茶道具に疎い自分ですが、「無一物」のことや長次郎と利休のこと、光悦茶碗の特長など凄く勉強になりましたし、茶器の見方がちょっと変わったかも。

林屋元館長の話で面白かったのが長次郎の「無一物」の入手秘話で、美術館の創設者・四代目頴川徳助の奥さんが「稽古用の茶碗が欲しい」という話になって、馴染みの古美術商が持ってきたのが「無一物」だったのだと。昭和27〜28年の値段で600万円ということですが、今だと幾ら位なんでしょう。それにしても稽古用って。。。

本阿弥光悦 「黒楽茶碗 銘水翁」
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵

「無一物」は見た目ちょっと弥生式土器のような土肌感があって、かせた味わいやその姿が利休とリンクして心にグッと来るものがあります。口縁部が微かに内側に抱え込んでいて、これは利休好みの茶碗の特徴の一つなのだとか。

ここでは光悦の黒楽茶碗や室町初期の形を伝える古い茶釜、織田信長が所持していた唐物茶入で、本能寺の変の際に焼けてしまうも共繕いされて今に至るという「大名物 勢高」など、茶器のことが分からなくても興味深く感じる作品が多くあります。

無準師範 「墨跡 淋汗」
南宋時代・13世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)

奥の部屋には墨跡と近代絵画。また東京ではなかなかお目にかかれない「浪花百景」なる浮世絵があって、これも面白かった。

絵画は前・後期で入れ替わりますが、工芸品は通期展示となります。


【頴川美術館の名品】
前期: 2016年4月5日(火)から4月24日(日)
後期: 2016年4月26日(火)から5月15日(日)
渋谷区立松濤美術館にて


名碗は語る名碗は語る

2016/04/18

美の祝典 Ⅰ やまと絵の四季

出光美術館で開催中の『美の祝典 Ⅰ -やまと絵の四季』を観てきました。

出光美術館開館50周年を記念する展覧会の第一弾。国内有数の日本美術のコレクションを誇る出光美術館が所蔵する絵画作品から、国宝・重要文化財を中心とした屈指の優品を3回に分けて公開するというものです。

第1期のテーマは“やまと絵”。出品数は28点でその内、国宝1点、重文11点、重要美術品3点。作品数は決して多くはないかもしれませんが、満足度はすごく高かったです。出光美術館が誇る何れ劣らぬ傑作群だけあって、素晴らしいの一言しか出てきません。ゆったりとスペースをとっているので、とても見やすくていいですね。

*** *** ***

会場を入ってすぐのコーナには室町から桃山時代にかけての屏風が4点だけ。それがまた圧巻。

まずは室町前期を代表する四季花鳥図の「日月四季花鳥図屏風」。個人的にもとても興味を持っている屏風で、経年の変色などがあるのが少々残念ですが、金箔・金泥・銀泥等を贅沢に使った装飾性の高さと、こんもりした山容など特徴的な描写や大胆な構図が目を惹きます。こうした屏風が室町の早い時期に存在したことも驚きですし、どこからこういう屏風が生まれたのかとても気になります。

左隻に太陽、右隻に三日月があって(それで“日月”)、それぞれ模った金属の板がはめ込まれているんですね。 ちょうど同じ日に観た府中市美術館の『ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想』にも同様に金属板の月があって、その工芸的な手法というんでしょうか、成り立ちや“日月”に金属板を特別使う意味、またその伝統(継承)などなど興味はつきません。

「日月四季花鳥図屏風(右隻)」(重要文化財)
室町時代 出光美術館蔵

その向かいには「宇治橋柴舟図屏風」。『源氏物語』の「宇治十帖」の宇治橋をイメージさせる図で、長谷川派の作品などでもよく見る「柳橋水車図屏風」と同じ画題になります。これも全面に金泥が使われ、霞雲も波紋も非常に手が込んだ描き方がされています。

「四季花木図屏風」はこれも室町時代のやまと絵屏風らしい優品。解説に≪清らかな夜景≫とあったところを見ると、これは夜の風景なのですね。雲母地に描かれた松や楓といった花木や山容、波紋がどれも優雅で美しく、桃山時代の屏風とはまた違った趣があります。画中には「土佐光信筆」と狩野探幽による紙中極が書き込まれているのですが、光信によるものとは断定されていないようです。

ほの暗い室内でひと際色鮮やかに映えるのが「吉野龍田図屏風」。右隻には満開の桜が、左隻には一面に錦秋の紅葉。春の吉野と秋の龍田川を描いた意匠性の高い屏風です。ほぼ同様の屏風が根津美術館にもありますが、同じ絵師によるものなのか、同じ時代に好んで描かれた主題なのか、気になります。

冷泉為恭 「雪月花図」
江戸時代 出光美術館蔵


つづいて「橘直幹申文絵巻」。橘直幹が民部大輔になりたくて申文を小野道風(!)に清書してもらうのですが、結局職には就けず、だけど天皇は申文の優れた点は認めていたという話。こちらは展示は一部のみでしたが、平安時代の市場の様子が描かれていて、犬がいたり、みんな笑顔だったりするのが面白い。

その奥には復古大和絵の第一人者・冷泉為恭の「雪月花図」。非常に細密に丁寧に描かれていて、いつ見てもその雅やかな美しさに感嘆します。

「伴大納言絵巻(上巻部分)」(国宝)
平安時代 出光美術館蔵

そして、本展の目玉でもある「伴大納言絵巻」。10年ぶりの公開だそうで、上中下巻をそれぞれ3期に分けて全巻展示されます。10年前の公開時はかなり混雑したので、それを想定してか、特別に仕切られたスペースになってます。

「伴大納言絵巻」は「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」と並ぶ四大絵巻の一つ。伴善男による応天門の変を題材にしたもので、後白河院の頃に描かれたとされています。上巻は詞書が欠損していたり、画中の一部が剥離しているところがありますが、修復されたこともあってか状態はとても良かったです。何より群集表現が素晴らしく、大火に逃げ惑う人々や遠巻きに見る眺める野次馬などそれぞれの描写が秀逸です。一人として同じ顔の人はなく、表情がまたとても豊かで、頬に色を付けていたりと細かな描写が施されていて驚きます。

画/伝 藤原信実、詞書/伝 後京極良経 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」(重要文化財)
鎌倉時代 出光美術館蔵

現存する歌仙絵の最古の作例とされるのが「佐竹本三十六歌仙絵」。もとは絵巻ですが、大正期に切断され掛物装に改められています。出光本は「柿本人麿」と「僧正遍照」の2点で、特に「柿本人麿」は巻頭にあたるもの。おととし『名画を切り、名器を継ぐ』で根津美術館所蔵品を観たのも記憶に新しいのですが、分断されず完本で残っていたら、たぶん間違いなく国宝だったでしょうね

絵巻では、奈良・長谷寺の由来や霊験譚を描いた「長谷寺縁起絵巻」や宗達による「西行物語絵巻」のほかに、奈良時代の古因果経5種の一つという「絵因果経」があります。「絵因果経」は過去にも国宝の東京藝術大学本や醍醐寺本なども観ていますが、出光本も非常に状態が良く、発色が良いのが印象的。ちょっと稚拙な感じの絵柄がどこかほんわかした味わいがあっていいですね。

「真言八祖行状図(龍智)」(重要文化財)
保延2年(1136) 出光美術館蔵

これも修復後初公開という「真言八祖行状図」は密教の正系を伝える八幅の説話画。修復されたとはいえ、絵はかなり遜色し、かなり見づらいのが正直なところです。とはいえ、山水や花木の描法など平安時代にさかのぼる初期やまと絵の作品として貴重。

そばには同じ寺に伝来したという慶派仏師による「増長天像」「持国天像」。鎌倉時代の仏像らしい躍動感ある姿が印象的。出光美術館であまり仏像を観ないので珍しいですね。

仏画では「山越阿弥陀図」や「十王地獄図」のほか、金色に輝く三幅対の「阿弥陀衆来迎図」が見事。金泥と截金をふんだんに使っていて、左右幅には楽器を奏でたり舞ったりする菩薩様がたくさん描かれていて、これが極楽浄土なのかと思ってしまいます。

伝・俵屋宗達 「月に秋草図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

最後に琳派初期の草花図屏風。宗達と伝わる「月に秋草図屏風」は金屏風に四季の草花を品良く配したとても優美な作品。銀泥の月が変色していますが、先の「日月四季花鳥図屏風」の金属的な月とのつながりを思うと興味深いものがあります。

伊年印の「四季草花図屏風」はさらに全面に色とりどりの草花が配され、より華麗な仕上がりになっています。「月に秋草図屏風」にしても「四季草花図屏風」にしても草花の描写はまだ意匠化されておらず、その的確な描写からはやまと絵の流れを感じます。

少し時代は下りますが、尾形乾山の四幅の「梅・撫子・萩・雪図」は恐らく襖絵を正方形に軸装した作品。ぼてっとした四季の花と筆をたっぷりとした筆の和歌の取り合わせが乾山らしくていい。



開幕早々の日曜の16時過ぎに入ったのですが、館内は空いていて、17時過ぎはほとんど人もいなくなり、ゆっくり鑑賞できました。10年前に「伴大納言絵巻」を観に来たときはとても混雑していた記憶があるので、本展も会期末になるとかなり混んでくると思います。絵巻物は混雑すると見づらいですし、ストレスになるので、空いてる時を狙って観ておいた方がいいですよ。出光美術館はいつも17時閉館ですが、期間中は18時までやっています(休館日に注意してね)。

なお、「伴大納言絵巻」のミニ解説本が500円ととてもお手頃なのですが、本展の図録も3期分の全作が載っていて2700円とリーズナブル。出光美術館所蔵の日本画傑作選という趣なのでオススメです。もちろん「伴大納言絵巻」も全巻写真が載ってます。


【開館50周年記念 美の祝典 Ⅰ -やまと絵の四季】
2016年5月8日(日)まで
出光美術館にて


やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ)やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ)

2016/04/17

ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想

府中市美術館で開催中の『ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想』を観てまいりました。

毎年好例の春の江戸絵画まつり。なかなか行けず、気づいたら前期展示の最終日。慌てて訪問してきました。

今回のテーマは「ファンタスティック」。江戸時代に“ファンタスティック”って言葉があったら、江戸の人々もそう叫んだんじゃないかというような作品がズラリ。江戸時代にこんな絵があったのかと驚きの連続です。

また今回も変な絵いろいろ探してきてますし、マイナーな絵師がたくさん集まってて、ほんと楽しい。ただの不思議な絵大会ではなく、江戸の人々の夢や空想、願いがちゃんと伝わってくるのがいいですね。

出品作はおよそ160点。前期と後期に分けて半分ずつ展示されます。


Ⅰ 身のまわりにある別世界

いつも何気なく見ている日常の風景や自然、季節にだって“ファンタスティック”な光景はあるんですね。ここでは<月>や<太陽>、<黄昏と夜>、<天空を考える>といったテーマに分け、作品を紹介しています。

岡本秋暉 「波間月痕図」
摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託) (展示は4/10まで)

ちらりと波間から覗く月を描いた岡本秋暉の「波間月痕図」、舞い散る一筋の雪が印象的な円山応挙の「雪中月図」、初日の出を眺める武士の背中に一年の決意が表れている同じく応挙の「元旦図」など、なるほどなという作品が並びます。酒樽を積んだ宝船図があったり、金雲に鹿が首を突っ込んでる(ように見える)鹿図屛風があったり、大名行列の様子を描いたユニークな掛軸があったり、しまいには江戸時代なのに気球の絵があったり、ほんとよくこんな珍しい絵を探してきますよね。府中市美の学芸員さんにはいつも感服します。

とりわけ面白かったのが、川床で涼む人々を描いた山口素絢の「四条河原夕涼図屛風」。飲み食いしたり、くつろいだり、猿芝居を楽しんだり、のんびりした光景がなんとも楽しい。なんと人魚の見せ物なんかもあります。

原鵬雲 「気球図」
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)

菊田伊洲という絵師の「魁星図」もユーモアがあって良かったです。鬼の右上に斗(マス)が描かれていて、鬼と斗で「魁」となり、北斗七星の第一星を指すのだとか。鬼の姿も漢字の「鬼」に似せています。


Ⅱ 見ることができないもの

見ることができないもの。それは物理的な距離や時間もあれば、現実の世界でないものなどがあります。<海の向こう>では異国の風俗や風景、南蛮図屏風などのほか、ガラス板に裏側から描いた異国情緒豊かなガラス絵なんかがありました。<神仏、神聖な動物>では、小泉斐のちょっとグロい「七福神図」や鯉が龍に変身する姿を描いた原在中の「飛竜図」など。

原在中 「飛竜図」
個人蔵 (展示は4/10まで)

驚いたのが加藤信清という絵師の「五百羅漢図」で、なんと輪郭線などが全てお経の文字で描かれています。単眼鏡で覗いても文字なのか筆で刷いてるのか分からないぐらい細かいのですが、これがなんと50幅もあるというんですから凄いです。

ほかにも地獄や妖怪、妖術などを描いた作品があって、河鍋暁斎の「地獄図」や、“くにくに”こと歌川国芳と歌川国貞の作品も展示されています。


Ⅲ ファンタスティックな造形

ここでは<金、霞、しなやかな形>、<見上げる視線>、<非日常的な色>に分けて作品を紹介しています。

「柳橋水車図屛風」
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)

徳島城博物館が所蔵する「柳橋水車図屛風」があったのですが、これがいいですね。金色の雲間から現れる雲が金属板(鉛?)でできていて、たまたま同じ日に出光美術館の『美の祝典 Ⅰ やまと絵の四季』で観た「日月四季花鳥図屏風」にも金属板の太陽と三日月があったんですね。これまであまり意識して観たことなかったのですが、日月(太陽と月)に金属板が使われているものは他にも例があるんだそうで、日月を特別のもの、神秘的なものと見る意味でも込められていたんでしょうか。琳派にも銀泥で月を描いてるのがよくありますが、金属の日月の流れを汲んでるような気もしてきます。


Ⅳ 江戸絵画の「ファンタスティック」に遊ぶ

ここはその他もろもろという感じ(笑)

墨江武禅 「月下山水図」
府中市美術館蔵 (展示は4/10まで)

正に“ファンタスティック!”と呼びたいような不思議な作品が多くて、巨野泉祐という絵師の「月中之竜図」は日照という人が見た夢を描いた作品で、月蝕した月の中に龍がいるんですね。発想が面白い。月に照らされた不思議な光景を描いた墨江武禅の「月下山水図」もとても印象的。月夜の趣きがリアルですね。タッチも独特。

曽我蕭白の「仙人図屛風」はさすがの怪作。蕭白の描く人物って結構みんなユニークな顔をしていますが、これはかなりの上物(笑)。カメの顔がまた傑作です。カエル好きの暁斎の「蛙の大名行列図」もお茶目でかわいい。

「楊梅図屛風」
個人蔵 (展示は4/10まで)

今回の展覧会で個人的に一番感動したのが「楊梅図屛風」。本展は国宝・重文クラスの作品があるような展覧会ではありませんが、この「楊梅図屛風」は一級品の存在感というか、他とは違うインパクトがあって、とにかく素晴らしい。落款や印などはないのですが、俵屋宗達によるものではないかとされていて、確かに岩や山の描き方、弧を描く水辺などいかにも宗達ぽい。後水尾天皇が亡母の供養のために依頼したのではないかといわれているようです。これが観られただけでも満足。

河鍋暁斎 「蛙の大名行列図」
個人蔵 (展示は4/10まで)

府中市美術館の江戸絵画まつりはいつも新鮮な驚きと発見があって毎年ほんと楽しみです。後期にも期待。


【ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想】
前期: 2016年3月12日(土)から4月10日(日)
後期: 2016年4月12日(火)から5月8日(日)
府中市美術館にて


かわいい江戸絵画かわいい江戸絵画

2016/04/16

安田靫彦展

東京国立近代美術館で開催中の『安田靫彦展』を観てまいりました。

東京国立近代美術館では40年ぶりという安田靫彦の大回顧展です。出品数は108点(展示替え含む)。下絵などはなく本画のみで、その量もスゴイのですが、これまで本人や遺族の意向で公開されなかった作品も多く出ているそうで、非常に充実した内容になってます。

安田靫彦というと大正、昭和に活躍をした日本画の大家。その代表作はこれまでも近代日本画の展覧会や、トーハクや東近美の常設展などでも観てたりしますが、取り立てて好きな画家というわけでもなく、いまひとつその良さが分かりませんでした。だから正直観に行くのもどうしようかと思ってましたが、今回こうして安田靫彦のさまざまな作品を観て、いろいろと発見もありましたし、かなり印象が変わりました。


第1章 「歴史画に時代性をあたえ、更に近代感覚を盛ることは難事である」 1899-1923

構成は時代ごとに分けられていて、その章題は安田靫彦の言葉から取られています。

最初の章では10代の頃の作品(早いもので15歳)が複数出品されていて、しかも大きなサイズだったり、どれもメチャクチャ完成度が高い。10代にしてこれだけ確かな線描と安定した構図を物にしていることに驚きます。聞けば14歳で歴史画の小堀鞆音に入門するも、そこでは物足らず2年で門を離れ、紫紅会を結成したり、岡倉天心の指導を受けたり、早い時期から才能を開花させていたようです。

安田靫彦 「守屋大連」
明治41年(1908) 愛媛県美術館蔵

10代の頃は、なるほど小堀鞆音の武者絵を思わせるところがありますが、紫紅会や天心の影響なのか、20代に入った頃には写実的な傾向が強くなったりもします。20代後半になると、後年の作品を思わす明快でしなやかな線や澄んだ色彩、余白を活かしたシンプルな構図が現れますが、まだそれ程こだわりはないのか、ときどき御舟の群青中毒みたいな作品があったりと、いろいろ試行錯誤していたことも分かります。

安田靫彦 「五合庵の春」
大正9年(1920) 東京国立博物館蔵 (展示は4/17まで)


第2章 「えらい前人の仕事には、芸術の生命を支配する法則が示されている」 1924-1939

ここでは大正末から戦争が始まるまでの作品を展示。線はより細く美しく整い、色彩も淡白で穏やかになり、靫彦のスタイルが確立していきます。古典や有職故実に拠った作品はそれまでも多かったのですが、より物語性が強くなったというか、豊かなイメージを与えてくれるようになります。

安田靫彦 「日食」
大正14年(1925) 東京国立近代美術館蔵

代表作も多く並んでいて、この時期の充実した活動が見て取れます。日食に恐れおののく王と王妃を描いた「日食」は細い輪郭線で描きつつも、墨を淡くぼかし、どこか夢幻的な効果を出しています。鬼になる前の風神と雷神を描いたという「風神雷神図」は子どものような無邪気な姿が印象的。鉄線描を実践したということですが、線はどちらかというとしっかりしていて、写真では分かりませんが、明るく柔らかな色味がとてもきれい。

安田靫彦 「風神雷神図」
昭和4年(1929) 遠山記念館蔵

安田靫彦 「孫子勒姫兵」
昭和13年(1938) 霊友会妙一コレクション蔵

ほかにも、孫氏が呉王の命で後宮の女性たちに兵術の訓練をする場面を描く「孫子勒姫兵」や、田能村竹田、頼山陽、青木木米が川床でくつろぐ「鴨川夜情」、良寛の長歌をもとにウサギ・サル・キツネと老人を描いた絵巻「月の兎」など、どれもなかなか見どころの多い作品が並びます。

安田靫彦 「菖蒲」
昭和6年(1931) 京都国立近代美術館蔵

歴史画に交じって、女性を描いた作品や草花を描いた作品などもあって、それがまた割と良かったりするのは新しい発見でした。靫彦の歴史画はいろいろ観たこともありますし、出品数としても一番多いのですが、美人画や静物画、歌仙絵など意外と幅広く、実は多彩な作品を残していることを初めて知りました。

安田靫彦 「花づと」
昭和12年(1937) 個人蔵


第3章 「昭和聖代を表象するに足るべき芸術を培ふ事を忘れてはならない」 1940-1945

時局柄、その作品は武士や不動明王など戦をイメージさせる作品が中心になります。歌舞伎座に行くといつもロビーに飾られている「神武天皇日向御進発」が展示されていたのですが、考えてみるとこれも皇紀2600年の時代の背景の中で描かれた作品なんですね。

安田靫彦 「黄瀬川陣」(重要文化財)
昭和15/16年(1940/41) 東京国立近代美術館蔵

とはいえ、この頃は既に細くしなやかな線描や無駄のない簡潔な構図が確立されていて、義経と頼朝という命運を分ける二人を描いた「黄瀬川陣」や勇ましく凛々しい姿が印象的な「源氏挙兵 (頼朝)」など、技術的にも成熟した作品が並びます。海軍省からの依頼で制作したという「山本五十六元帥像」も戦時下ならではの傑作。写生の機会を得る前に山本五十六が戦死してしまったため写真をもとに描いたといい、背景も含め、かなり綿密に描きこまれています。

安田靫彦 「源氏挙兵(頼朝)」
昭和16年(1941) 京都国立近代美術館蔵


第4章 「品位は芸術の生命である」 1946-1978

戦後の日本画は様相を一変しますが、靫彦は批判にさらされようと動じることなく歴史画を描き続けます。当然、確固たる信念や自信があってのことでしょうが、その姿は逆に潔く感じます。

安田靫彦 「王昭君」
昭和22年(1947) 足立美術館蔵 (展示は4/17まで)

安田靫彦 「卑弥呼」
昭和43年(1968) 滋賀県立近代美術館蔵

「王昭君」や「卑弥呼」といった戦後を代表する作品をはじめ、ここでも肖像画や静物、仏画、源氏絵、琳派的な作品など幅広く、非常に面白い。情動を抑えたというか、あからさまに表情を描かない作品が多い中、横山大観の肖像は何ともいえない情感に溢れていて秀逸です。

安田靫彦 「大観先生」
昭和34年(1959) 東京国立近代美術館蔵

織田信長を描いた「出陣の舞」は山種美術館でも観ていますが、同じ時期に森蘭丸を描いた作品もあるのですね。本展では並んで展示されています。あと、山種で以前観たのとたぶん違う作品かなと思うのですが、金屏風に万葉集の歌を書いただけの作品がまたいいんですね。すごく能筆で、非常に美しい。

安田靫彦 「出陣の舞」
昭和45年(1986) 山種美術館蔵

安田靫彦は94歳で大往生を遂げますが、本展の最後の作品は91歳のもので、それがまた腕が全く衰えることなく、最晩年まで非常にイメージ豊かな作品を制作し続けていたことには驚きました。時代を追って観ていくと線質や表現をいろいろ試していたりもしていましたが、画風が大きくブレることはなく、どれも卒がないというか隙がないというか澱みがないというか、抜群の安定感があります。安田靫彦に苦手意識のあった人はきっと印象が変わると思いますよ。


【安田靫彦展】
2016年5月15日(日)まで
東京国立近代美術館にて


安田靫彦 (新潮日本美術文庫)安田靫彦 (新潮日本美術文庫)