2017/04/22

茶の湯展

東京国立博物館で開催中の特別展『茶の湯』を観てまいりました。

室町の東山御物や唐物趣味から近代の数寄者旧蔵品まで、“茶の湯”の歴史とその世界を、数々の名品・名椀とともに展観するという展覧会。“茶の湯”をテーマにしたここまで大規模な展覧会はトーハクでは実に37年ぶりなのだそうです。

長次郎あり、利休あり、もちろん大名物もあり、織部の茶室まで再現されてるし、何といっても集めに集めた名碗の数々は、あれも来てる、これも来てるで、もうこれ以上は望めないんじゃないだろうかという贅沢さ。一幅のお茶どころか、ドラム缶でお茶飲んだぐらいにおなかがいっぱいになりました。

ちょうど東京国立近代美術館では『茶碗の中の宇宙』もあったり、出光美術館でも『茶の湯のうつわ』があったり、今年は“茶の湯”ブームなのでしょうか。それにしても、これだけあちらこちらで同時期に“茶の湯”をテーマにした展覧会があると、一気に勉強できて有難いです。


会場の構成は以下のとおりです:
第一章 足利将軍家の茶湯-唐物荘厳と唐物数寄
第二章 侘茶の誕生-心にかなうもの
第三章 侘茶の大成-千利休とその時代
第四章 古典復興-小堀遠州と松平不昧の茶
第五章 新たな創造-近代数寄者の眼

牧谿 「観音猿鶴図」 (国宝)
南宋時代・13世紀 大徳寺蔵 (※展示は5/7まで)

まず会場に入ってすぐ、目に飛び込んでくるのが牧谿の「観音猿鶴図」。滅多に公開されない作品であり、周文や長谷川等伯、狩野派などにも大きな影響を与えた水墨画の傑作です。等伯や山楽らの猿の絵が本作をモトにしていることでも有名ですね。おととしトーハクの『博物館に初もうで』で横山大観が模写した作品を観ていますが、牧谿の実物は初めて拝見しました。猿の毛の質感と鶴の羽毛の質感が全く違っていたり、観音様の顔の線質と衣文線の線質に変化をつけるなど、猿と観音様と鶴の筆調がそれぞれに異なり、三幅それぞれに水墨の技法のすべてが詰まったような素晴らしい作品でした。

[写真左から] 梁楷 「六祖截竹図」 (重要文化財)
南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵 (※展示は4/23まで)
(伝)梁楷 「六祖破経図」 南宋時代・13世紀 三井記念美術館蔵

梁楷の「六祖截竹図」と「六祖破経図」が並んで観られるのは三井記念美術館の『東山御物の美』以来ではないでしょうか。竹を切って悟りを得たという故事と、悟りは文字で伝えられるものではない禅の教えを描いたもの。それぞれ所蔵先(東博と三井記念美術館)が異なるので、こうした機会でもなければ一緒に見られません。

梁楷の「寒山拾得図」と馬麟の「寒山拾得図」が並んで展示されていたのも面白かったです。いずれも速筆の闊達な線なのですが、それぞれに味があり、とくに梁楷のニタリとした「寒山拾得図」がいい。梁楷は円窓に破墨の岩と略筆の鷺を描いた「鷺図」も印象的。

絵・藤原隆章 「慕帰絵 巻五」(重要文化財)
南北朝時代・観応2年(1351年) (※展示は4/23まで)

なんと室町時代を代表する絵巻の一つ「慕帰絵」が、『絵巻マニア列伝』ではなくこちらに出てました。覚如上人の伝記絵巻「慕帰絵」は本願寺の重宝で、絵巻マニアの足利義尚が借りたものの何年も返却せず、結局10巻のうち2巻を失くしてしまったという作品(その後補作)。展示されているのは歌合の部屋の隣で食事の支度やお茶の用意をしているという場面。日本の喫茶文化は室町時代から広まったといわれているので、その頃の風景なのでしょう。床の間には青磁らしきものが飾られているのも見えます。

「曜変天目 稲葉天目」(国宝)
南宋時代・12~13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵 (※展示は5/7まで)

本展は、出品作のほぼ9割が茶碗や茶器、香合など茶道具。茶の湯の世界に疎い人でも、この展覧会を観れば、ほぼ間違いなく、一通りの知識が身につけられるのではないでしょうか。各章はさらにこまかにテーマが設けられ、そのテーマに沿って作品がまとめられているので、大変見やすく、また分かりやすいと感じました。

前期展示の目玉は、最近何かと話題の“曜変天目”。国宝とされる三椀の曜変天目茶碗のうちの一つ。照明がややフラットだったので、静嘉堂文庫美術館で自然光の中で観たほどの感動は正直なかったのですが、それでも小宇宙とも評される瑠璃色の光彩は一見の価値ありです。

「油滴天目」 (国宝)
南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館蔵

「灰被天目 銘 虹」 (重要文化財)
元~明時代・14~15世紀 文化庁蔵

油滴天目茶碗の唯一の国宝、大阪市立東洋陶磁美術館の「油滴天目」はビッシリと現れた斑文が金にも銀にも見えて素晴らしいの一言。「稲葉天目」もそうですが、これでお茶をいただくということが全く想像できませんが…。

油滴天目茶碗はたくさん展示されていて、他にも「灰被天目」や「禾目天目」、「木葉天目」、「文字天目」、「鸞天目」など、華麗な天目茶碗がズラリ。中でも、兎の毛のような銀色の景色が面白い「建盞(禾目天目)」や、黄色の斑模様が鼈甲柄に見えることからその名がつく「玳玻盞 鸞天目」が面白かったです。こうした見た目にも美しい天目や青磁といった唐物茶碗は足利将軍家には尊ばれたのでしょう。

「唐物肩衝茶入 銘 初花」 (重要文化財)
南宋~元時代・13~14世紀 徳川記念財団蔵 (※展示は4/23まで)

大名物として名高い「肩衝茶入 初花」。天下三肩衝と呼ばれた茶器の一つで、信長、秀吉、家康と手に渡っていった茶入としても有名ですね。この端正な形と何とも言えない釉薬の景色が時の権力者を虜にしたんだろうなと、そんな感慨を覚えました。

初代長次郎 「赤楽茶碗 銘 無一物」 (重要文化財)
安土桃山時代・16世紀 頴川美術館蔵 (※展示は5/7まで)

初代長次郎 「黒楽茶碗 銘 ムキ栗」  (重要文化財)
安土桃山時代・16世紀 文化庁蔵

第二会場に入ったところには長次郎の名碗が6点も。『茶碗の中の宇宙』で4月上旬まで限定公開されていた「無一物」や「白鷺」、「一文字」、「万代屋黒」はこちらにも出品されています。「ムキ栗」、「俊寛」、「利休」(展示は4/16まで)はこちらだけのようです。 「無一物」はちょうど1年前、松濤美術館の『頴川美術館の名品』で初めて観て、そのカセ肌の味わい深さに強く感銘を受けた作品。林屋晴三理事の講演を拝聴し、茶碗の魅力を教えてもらったというのも大きかったと思います。本展の開幕直前に林屋氏の訃報が飛び込んできましたが、この『茶の湯展』をご覧になりたかっただろうなと、長次郎を見ながら、そんなことを考えていました。

本阿弥光悦 「黒楽茶碗 銘 時雨」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 名古屋市博物館蔵

少し先のコーナーでは、樂家三代目・道入(ノンコウ)と光悦の作品も。光悦の黒楽茶碗のゆったりとした佇まいの美しさ、ザラッとした肌の味わい。素晴らしいですね。ノンコウの「残雪」は蛇褐釉の風景がまたとても魅力的でした。

高麗茶碗や大井戸茶碗、志野や織部、黄瀬戸、信楽、唐津といった名碗の数々。もう挙げたらキリがないのですが、雨漏り状の染みの模様が味わい深い「雨漏茶碗」、大胆な造形と黒釉に浮かび上がる模様が印象的な織部黒茶碗の「悪太郎」に強く惹かれました。

「雨漏茶碗」 (重要文化財)
朝鮮時代・16世紀 根津美術館蔵

「志野茶碗 銘 卯花墻」 (国宝)
安土桃山時代~江戸時代・16~17世紀 三井記念美術館蔵

会場の途中には、古田織部の茶室「燕庵」が再現展示されています。ここだけ写真撮影可です。須田悦弘の花がさりげなく飾られています。


この4月からトーハクの金・土の夜間開館が21時までになったのに伴い、『茶の湯展』も金・土は21時までやってます。仕事帰りに行ってもゆっくりできるのがうれしいですね。とはいえ、『茶の湯展』は出品作が多いので、2時間観てましたが、それでも最後は駆け足になってしまいました。時間にゆとりをもって出かけられるのをお勧めします。


【特別展 「茶の湯」】
2017年6月4日(日)
東京国立博物館にて


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月刊目の眼 2017年5月号 (東京国立博物館 特別展「茶の湯」 名碗を創造した茶人たち 奈良国立博物館 特別展「快慶」 快慶を護るお寺をたずねて)月刊目の眼 2017年5月号 (東京国立博物館 特別展「茶の湯」 名碗を創造した茶人たち 奈良国立博物館 特別展「快慶」 快慶を護るお寺をたずねて)

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