2017/08/14

月岡芳年 妖怪百物語

太田記念美術館で開催中の『月岡芳年 妖怪百物語』を観てまいりました。

月岡芳年の代表作である「和漢百物語」シリーズと「新形三十六怪撰」シリーズ、そして「月百姿」シリーズの全点を2カ月に分けて公開するという展覧会。

ちょうど5年前ですが、芳年が観たい、芳年が観たいとほうぼうで言っていたら、東京で約17年ぶりという『月岡芳年展』が同じ太田記念美術館で開かれ、あらためて芳年のドラマティックでエネルギッシュな浮世絵版画の世界に惚れ込みました。その中で、とりわけ印象に残ったのが、この「和漢百物語」と「新形三十六怪撰」と「月百姿」。その時の展覧会では全点は観られなかったので、これはもう芳年好きにはたまらないのではないでしょうか。

今月8月は芳年初期を代表する「和漢百物語」シリーズと晩年の傑作「新形三十六怪撰」シリーズを全点展示。ほかにも芳年の怪奇もの妖怪ものの浮世絵版画を集め、夏にぴったりの展覧会になっています。

月岡芳年 「羅城門渡辺綱鬼腕斬之図」
明治21年(1888)

まずは畳の座敷に上がらせていただいて、並んだ作品をじっくり拝見。
いきなり「岩見重太郎兼亮 怪を窺ふ図」は半裸の女性が生贄にされているというショッキングな浮世絵。ヒヒの姿をした妖怪というのも珍しい。「不知藪八幡之実怪」はなんと水戸黄門が登場。一度入ったら二度と出られないという藪の前でいかつい白髪の老人が光圀が藪に入るのを防ぐという絵。「羅城門渡辺綱鬼腕斬之図」は上空から襲いかかる鬼とそれを見上げる渡辺綱という竪二枚継のスリリングな構図が見事。横殴りの雨と稲光の描写もインパクトがあります。渡辺綱の鬼退治の話は妖怪物の浮世絵ではよく見かけ、本展でも同画題の作品が他にもありました。

月岡芳年 「和漢百物語 伊賀局」
慶応元年(1865)

「和漢百物語」からは「伊賀局」。後醍醐天皇の妃に仕えた女官の話で、亡霊をものともせず涼しげな顔で団扇を仰ぐ姿が面白い。


第1章 初期の妖怪画

芳年は数え12歳の頃に歌川国芳のもとに入門。その3年後には三枚続の大判錦絵を手掛けるまでになったといいます。「桃太郎豆蒔之図」は数え21歳のときの作品。この頃はまだ後年のような複雑な線は見られず、構図もそれほど凝ってません。ただ翌年制作の「楠多門丸古狸退治之図」を見ると、闇に浮かぶ化け物を黒い影のように描くなど、師・国芳の画風を継承しながらも構図や表現に独自性を出そうとしていたようです。

月岡芳年 「楠多門丸古狸退治之図」
万延元年(1860)

青い色の山姥が不気味な「正清朝臣焼山越ニ而志村政蔵山姥生捕図」や、日本の動物と異国の動物の対決というユニークな「和漢獣物大合戦之図」、禿や山伏の姿をしたユーモラスな妖怪が楽しい「於吹島之館直之古狸退治図」、歌舞伎の曽我ものでは脇役の朝比奈三郎が閻魔大王を叩きのめすという「一魁随筆 朝比奈三郎義秀」など、題材の幅の広さもさることながら、芳年の表現力・構成力がどれも楽しい。


第2章 和漢百物語

「和漢百物語」はその名のとおり、日本(和)や中国(漢)の怪異譚を取り上げた揃物の浮世絵版画。百物語となってますが、実際には26図のみ。「酒呑童子」や源頼光朝臣の土蜘蛛、大宅太郎光圀のがしゃ髑髏、渡辺綱の鬼退治といった説話ものでよく見る妖怪もあれば、織田信長や豊臣秀吉に因んだ怪談や相撲の力士が化け物を退治する話など、そんな話もあるんだというようなものもあります。歌舞伎の『伽羅先代萩』の仁木弾正の名場面を描いたものもありました。

月岡芳年 「和漢百物語 酒呑童子」
元治2年(1865)

月岡芳年 「和漢百物語 白藤源太」
元治2年(1865)

「白藤源太」は河童が相撲を取ってる図が笑えますが、白藤源太が河童を投げ殺したという伝説に基づくのだとか。相撲絵にもよく描かれる小野川喜三郎も妖怪を退治したという伝説があるそうで、首長入道に煙草の煙を吹きかけるというユニークな作品がありました。

月岡芳年 「和漢百物語 頓欲ノ婆々」
慶応元年(1865)

「舌切り雀」も芳年が描くとこうなる(笑)。大きなつづらを開けると、そこには…。妖怪もユーモラスですが、頭を抱えて仰け反る婆さんも可笑しい。

月岡芳年 「和漢百物語 華陽夫人」
元治2年(1865)

「華陽夫人」はまるでピアズリーのサロメ。秦の皇帝の后で絶世の美女だが、実は悪狐だったという話だそうです。


第3章 円熟期の妖怪画

菊池容斎の『前賢故実』というと、松本楓湖や小堀鞆音などに代表される明治期の歴史画に多大な影響を与えた日本の歴史上の偉人たちの人物画伝ですが、芳年もその影響を強く受けていたのだそうです。人物の表現が明らかに緻密になっただけでなく、西洋画を意識した陰影法を取り入れたり、構図もよりダイナミックで劇的なものになっていくのが分かります。「大日本名将鑑 平惟茂」なんて、まるで劇画です。縦の構図で巨鯉に乗る金太郎を描いた「金太郎捕鯉魚」も迫力満点。庭の雪山が骸骨になっているだまし絵風の「新容六怪撰 平清盛」も面白い。

月岡芳年 「大日本名将鑑 平惟茂」
明治12年(1879)


第4章 新形三十六怪撰

「新形三十六怪撰」はその名のとおり36図からなる芳年最晩年の集大成。かつてのような過剰な演出や奇抜な表現は影を潜め、線もより繊細になり、どちらかというと様式美を感じるところさえあります。

月岡芳年 「新形三十六怪撰 清玄の霊桜姫を慕ふ」
明治22年(1889)

月岡芳年 「新形三十六怪撰 二十四孝狐火」
明治25年(1892)

「新形三十六怪撰」には「舌切り雀」や「分福茶釜」のようにオーソドックスな昔話もありますが、「四谷怪談」や「桜姫東文章」、「本朝二十四孝」、「関の扉」、「船弁慶」、「鷺娘」のように歌舞伎や能などで人気の演目や三遊亭圓朝の怪談噺「牡丹灯籠」、河鍋暁斎の作品でも知られる「地獄太夫」など、どちらかというと、江戸時代以降に創作された話や時代的にも新しい怪談が中心になっているようです。

月岡芳年 「新形三十六怪撰 ほたむとうろう」
明治24年(1891)

芳年の弟子に美人画を得意とした水野年方がいて、昨年、同じ太田記念美術館で『水野年方展』も拝見しましたが、「新形三十六怪撰」の優美な女性像や、今回出品されてませんが、年方の美人画の代表作「風俗三十二相」などを観ると、年方や年方の門人である鏑木清方や池田輝方といった美人画に連なるものも感じます。

月岡芳年 「新形三十六怪撰 地獄太夫悟道の図」
明治23年(1890)

9月には「月百姿」が全点公開。本展の半券提示で次回の『月岡芳年 月百姿』が200円割引になります。


【月岡芳年 妖怪百物語】
2017年8月27日まで
太田記念美術館にて


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