2018/01/27

運慶 鎌倉幕府と霊験伝説

金沢文庫で開催中の『運慶 鎌倉幕府と霊験伝説』を観てきました。

ちょうど昨年の10月、トーハクの『運慶展』が盛り上がっている最中、神楽坂ラカグの『運慶ナイト』というイベントで、運慶研究の第一人者・山本勉先生と金沢文庫の瀬谷学芸員のトークを拝聴したのですが、その中で瀬谷学芸員が東国における運慶および運慶派の活動について熱心に語られていて、今回の金沢文庫の展覧会についても触れていたので、大変楽しみにしていました。

本展はその東国における運慶仏、特に鎌倉幕府との関係に焦点を当て、2011年の同館の『運慶 中世密教と鎌倉幕府』を深掘りし、さらに近年の研究の成果が見えて期待通りのとても充実した内容になっていました。



2階の会場でまず圧倒されるのが横並びされた曹源寺の「十二神将立像」。昨年、トーハク本館の仏像コーナーでも展示され、そのカッコよさが話題になった12躯の仏像です。写実的で動きのある造形は運慶派によるものとされていますが、もとは鎌倉・永福寺(廃寺)の運慶による十二神将像の模刻という可能性も指摘されているとか。頭部に付けられた十二支の標幟は江戸時代の補作で、各像の本来の名前と頭の干支が一致しなかったりするので、ちょっと混乱します。トーハクでも真ん中にいた巳神は周りより若干大きいのですが、ほかの異形めいた神将に比べ、表情はどことなく人間的です。

「十二神将立像」(重要文化財)
鎌倉時代 横須賀・曹源寺蔵(※写真は東博での展示時に撮影)

運慶派によるとされる横須賀・大善寺の「天王立像」は顔面が損傷していますが、図らずも内刳りが見えて面白い。中尊寺金色堂の増長天の様式を踏襲しているとあり、平泉との関係も興味深いところ。

運慶仏としては、光明院の「大威徳明王像」と光得寺の「厨子入大日如来坐像」、そして愛知・瀧山寺の「梵天立像」が出ています。光明院と光得寺の運慶仏はトーハクの『運慶展』にも出陳されていましたが、光得寺の「大日如来坐像」は作風や来歴などから運慶の手によるものとされていますが、トーハクでも本展でも運慶作とは明記されていません。瀧山寺の運慶・湛慶合作の三尊は、2011年の『運慶 中世密教と鎌倉幕府』では「帝釈天立像」、昨年のトーハクの『運慶展』では「聖観音菩薩立像」が来ていたので、これでコンプリート。

伝運慶・湛慶作 「梵天立像」(重要文化財)
鎌倉時代・正治3年(1201) 愛知・瀧山寺蔵

その瀧山寺の「聖観音菩薩立像」の造像当初のものとされる装飾金具と鎌倉・永福寺出土の装飾金具が並んで展示されていたのですが、同じ工房で制作されたものと考えられているかで強い興味を覚えました。現在の三尊像は明治時代に彩色されたという話なので、装飾も同じく造り直されたものなのでしょう。横を向けば「梵天立像」があって、一見豪華に見える装飾も造像当初のものと比べると随分シンプルなのが分かります。

「不動明王立像」
鎌倉時代 埼玉・地蔵院蔵

運慶は鎌倉に下るとき、慶派仏師を引き連れていたとされていますが、本展では宗慶、実慶など運慶周辺の慶派仏師による仏像、またその東国の広がりやそこから派生した様式についても積極的に取り上げています。宗慶は康慶の弟子で運慶の兄弟弟子、実慶は運慶の弟子、もしくは兄弟弟子とのこと。宗慶は保寧寺の「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」、実慶はかんなみ仏の里美術館所蔵の「勢至菩薩立像」と修禅寺の「大日如来坐像」が展示されています。藤沢・養命寺の「薬師如来坐像」も宗慶や実慶の作例に近いと紹介されていました。

「類焼阿弥陀縁起絵巻」(重要文化財)、「阿弥陀如来像」
鎌倉時代 神奈川・光触寺蔵

快慶仏の可能性もあるという仏像もあったり、ユニークな童子像があったり、印象的な仏像は他にもいろいろあるのですが、その中でとりわけ目を引いたのが運慶作と伝わる光触寺の「阿弥陀如来像」。その名のとおり焦げたような跡があり、胸から上は真っ黒。本当に運慶の手によるものなのかどうかは分かりませんが、そうした伝承が語り継がれてきたということは興味深いところです。

近年の研究で運慶作とほぼ断定された舞楽面もあって、陵王の頭上の龍と興福寺現南円堂の広目天(実際には北円堂の持国天だろうとされるもの)の帯喰とが類似しているという指摘も説得力がありました。(家に帰って、トーハクの『運慶展』の図録の写真とまじまじと見比べました)

[写真左] 「舞楽面 陵王」(重要文化財)
鎌倉時代・建保7年(1219) 神奈川・光触寺蔵
(写真右は参考:興福寺現南円堂広目天の帯喰部分)

昨年トーハクで大々的に開かれた『運慶展』に比べたら、規模もはるかに小さいですが、狭い会場に運慶はじめ運慶派の諸仏が所狭しと並ぶ様は濃密。トーハクの『運慶展』に補完する意味でも是非訪れたい展覧会です。


【運慶 鎌倉幕府と霊験伝説】
2018年3月18日(日)まで
神奈川県立金沢文庫にて


芸術新潮 2017年 10 月号芸術新潮 2017年 10 月号

2018/01/20

墨と金 狩野派の絵画

根津美術館で開催中の『墨と金 -狩野派の絵画-』を観てきました。

室町時代に京都で興り、足利将軍家から織田信長や豊臣秀吉、そして江戸幕府へ、時の権力者や政権の御用絵師として400年もの長きにわたって頂点に立ち続けた狩野派。中国絵画の筆様を整理した“真体・行体・草体”の水墨画、文化の成熟と時代のムードを体現した絢爛豪華な金屏風。本展はその“墨”と“金”という狩野派を象徴する2つの側面から狩野派の何たるかを探ろうという企画展です。

展示は全て根津美術館の所蔵品で構成されていますが、作品数は決して多くありませんし、狩野派を語るには正直全く足りません。ただ、そこはさすが根津美術館なので、良い作品が出ています。

会場に入ると、まず拙宗等楊(雪舟)の「潑墨山水図」と芸阿弥の「観瀑図」と狩野正信の「観瀑図」。それぞれ中国・南宋の絵師・玉澗、夏珪を手本にした作品として紹介されています。中国絵画の受容という意味で、室町水墨画から狩野派への流れの手掛かりになりますし、サントリー美術館の『狩野元信展』のおさらいとしてもいいですね。

芸阿弥筆 月翁周鏡ほか二僧賛 「観瀑図」(重要文化財)
室町時代・文明12年(1480) 根津美術館蔵

その元信の作品が意外にも充実しているのが嬉しいところ。「養蚕機織図屏風」は『狩野元信展』にも出品されていた作品。梁楷の「耕織図巻」を研究した元信らしい傑作です。梁楷の絵巻を屏風に展開した構成力といい、硬軟自在な山水の表現といい、広がりと奥行きのある構図といい、養蚕・機織の的確で精緻な描写といい、非の打ち所がありません。

伝・狩野元信 「養蚕機織図屏風」
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

「猿曳図屏風」は後の狩野派絵師にも引き継がれる画題。ここである程度基本の構図ができているのが興味深い。断簡(?)の「山水図」は真体の山水図で、伝・元信の作と紹介されていますが、観た感じは元信なのか正信なのか判断の難しいところ。中国画風の折枝画「林檎鼠図」は旧大仙院方丈障壁画の折枝画と比べると、ちょっと硬いというか、恐らく工房作なんだろうなという感じがします。鼠の小さく細い指や精緻な毛書きがとてもリアル。

長吉 「芦雁図」(重要美術品)
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

元信の門人とされる絵師の作品を観ることができたのも収穫でした。元信の門人は少なくとも数十人いたといわれていますが、その遺品は少なく、なかなか観る機会がありません。長吉の「芦雁図」は行体の水墨。後期に展示される元信の「四季花鳥図屏風」にもほぼ似た構図の雁の群れが描かれていますが、どちらもソースは牧谿の「芦雁図」。牧谿画にも元信画にも飛ぶ雁が描いているので、長吉の「芦雁図」ももしかしたら上の方に飛ぶ雁が描かれていたのかもしれません。珍牧の「寒江独釣図」は「養蚕機織図屏風」にも描かれていた小舟の上の釣人を描いた作品。これもよく見る構図ですね。関東に進出した狩野玉楽とされる右都御史の「梅四十雀図」は粗放な筆の梅と簡素ながら的確な雀という墨技が楽しめます。

 
狩野探幽 「両帝図屏風」
江戸時代・寛文元年(1661) 根津美術館蔵

江戸狩野では、中国の故事を描いた狩野探幽のきっちりした「両帝図屏風」と、弟・尚信の対照的にミニマルな「山水花鳥図屏風」。「両帝図屏風」は中国古代の皇帝を描いた一種の勧戒画。一方の尚信は探幽が示した瀟洒淡泊と評される余白を活かした減筆体の墨画をさらに推し進めたような屏風で、破墨のような山水と、簡素ながら的確に動態を捉えた鳥が見事。

江戸中期の絵師とされる狩野宗信の「桜下麝香猫図屏風」も印象的。麝香猫も中国絵画や狩野派の作品で見かける画題ですが、ゆるやかな土坡や緑青の水面、また水分の多い絵具で描いた樹木などは琳派を思い起こさせます。

狩野山雪 「梟鶏図」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

京狩野にも触れていて、狩野山雪の作品がいくつか。いずれも京博の『狩野山楽・山雪展』にも出品されていた作品。「藤原惺窩閑居図」と「秋景山水図」は山雪の奇矯さはありませんが、異様に屈曲した松の枝は山雪の特徴でもあるとのこと。双幅の「梟鶏図(松梟竹鶏図)」はフクロウとニワトリの目つきが笑えます。2階には狩野山楽と伝わる「百椿図」も展示されているので忘れずに。「百椿図」は2巻からなる絵巻で、さまざまな園芸椿が花器に見立てたさまざまな器(中にはちりとりや箒も)に飾られていて、大名や皇族・歌人らの筆による和歌や俳句、漢詩が添えられています。

サントリー美術館の『久隅守景展』にも出ていた「舞楽図屏風」もありました。濃い色彩が京狩野の影響というように解説されていたのですが、色が濃ければ京狩野みたいな解説はちょっと短絡的。左隻の舞人の図様は俵屋宗達の「舞楽図屏風」に共通するし、守景とほぼ同時代の狩野永納の「舞楽図屏風」にも似た図様があるので、宗達か、あるいは共通の基となる作品に拠っているのではないかと思われます。

最後にあった「源氏物語図屏風」もちょっと何だかなぁという感じ。解説で指摘されていた永徳より光信風を感じもしますが、人物表現は凡庸・稚拙で、画面構成もボテボテしてまとまりがありません、狩野派とするにはかなり見劣りがします。

伝・狩野山楽 「百椿図」(※写真は一部)
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

少ない作品の中で狩野派らしさ、伝統をいかに見せるかという点で苦労している感じはありますが、狩野派のいくつかの側面を観るという点ではとても良い展覧会だと思います。後期は一部展示替えがあります。


【墨と金 -狩野派の絵画-】
2018年2月12日(月・祝)にて
根津美術館にて


別冊太陽131 狩野派決定版 (別冊太陽―日本のこころ)別冊太陽131 狩野派決定版 (別冊太陽―日本のこころ)

2018/01/03

博物館に初もうで

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年も博物館・美術館巡りはトーハクから活動開始! 毎年恒例『博物館に初もうで』に新年早々開館の1時間前から並び、混み合う前にひととおり観てまいりました。朝早いし寒いかなと厚着で出かけたのですが、幸いに風もなく穏やかな晴天で、日差しも心なしか暖か。

今年のお正月は平成館で特別展をやってないので、去年ほど混まないかなと思ってましたが、開館前にはかなりの行列になっていたようですし、お昼過ぎにトーハクをあとにしたときにも当日券を買い求める人の列がかなり長く伸びてました。『博物館に初もうで』も恒例行事となり、年々混雑するようになっている気がします。

今年は戌年ということで、本館2階の特別1室・2室では≪博物館に初もうで 犬と迎える新年≫と題し、戌(犬)をテーマとした作品が展示されています。当然ですが、犬だらけ。たまりませんな(笑)

円山応挙 「朝顔狗子図杉戸」
江戸時代・天明4年(1784) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

円山応挙 「狗子図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

犬といえば、長沢芦雪の犬がかわいいと人気ですが、芦雪の師匠・円山応挙の犬の絵が2点出ています(芦雪はありません)。解説に「犬は世界中で最も古くから人に飼われていたと考えられる動物」とあるように、最近サウジアラビアから8000年前と思われる壁画から世界最古の犬の絵が見つかったなんてニュースもありましたし、それこそ「鳥獣戯画」にも犬は出てきますが、応挙以前にここまで仔犬をコロコロモフモフに描いた画家がいたでしょうか。いまはキャラクター化されたかわいい犬の絵はいくらでもあるけど、当時としては革新的だったのではないでしょうか。

竹内栖鳳 「土筆に犬」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

四条派の流れを汲む竹内栖鳳の「土筆に犬」に描かれた犬も応挙の犬の完全な摸倣。皇居に納められた襖絵の下絵なのですが、この犬が描かれた襖が皇居にあるってことなんでしょうね。

歌川広重 「名所江戸百景・高輪うしまち」
江戸時代・安政4年(1857) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

喜多川歌麿 「美人子供に小犬」
江戸時代・文化3年(1806) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

犬が描かれた浮世絵がいくつも展示されていましたが、こうして見ても江戸庶民の日常に犬がフツーに溶け込んでます。広重の「名所江戸百景・高輪うしまち」は“うしまち”というのに牛は描かれず、わらじでじゃれて遊ぶ仔犬が描いているのが面白い。広重の仔犬も歌麿の仔犬もコロコロとして、ちょうど時代的にも応挙の仔犬に影響されてるんだろうなと感じます。

鈴木春信 「犬を戯らす母子」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

菊川英山 「狆だき美人」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

狆といえば、大名家や大奥で人気だったという江戸時代を代表する愛玩犬。狆を抱いているというだけでセレブ感が漂いますね。春信の黒い小型犬はなんでしょうか。子どもが母親の後に隠れてるのは犬をおっかながっているのかな?

橋本周延 「江戸婦女」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

橋本周延(楊洲周延)の肉筆浮世絵「江戸婦女図」にも狆が。江戸の風俗を描いた作品ではありますが、女性の顔はいかにも明治期の美人画という感じです。着物の柄がまた実に細かい。

伝・夏珪 「山水図」
中国・南宋~元時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

ほかにも英一蝶の雑画帖や酒井抱一の絵馬も良かったのですが、こちらは撮影禁止。中国絵画の模本の狗図などもあった中、なぜか夏珪(伝)の「山水図」があって、ここにも犬が描かれているそうです(すぐに見つけましたが)。ほとんどウォーリーを探せ状態(笑)。

「染付子犬形香炉」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

「緑釉犬」
後漢時代・2~3世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

犬の陶磁器もいくつか。愛らしい仔犬の香炉は平戸焼。口と耳からお香の煙が出るみたい。「緑釉犬」は不細工な感じがどこか愛嬌があって憎めないですね。

「犬形置物」
19世紀 東京国立博物館蔵(ライプツィヒ民族学博物館寄贈) (展示は1/28まで)

磁器の街として知られるドレスデンで作られたといわれる犬型の置物。スパニエルでしょうかね。目にはガラス玉がはめられているそうです。

「釈迦金棺出現図」(国宝)
平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵 (展示は1/28まで)

つづいて国宝室。ここ数年、お正月に決まって公開されていた長谷川等伯の「松林図屏風」が今年はお休み。今年は平安時代後期を代表する仏画「釈迦金棺出現図」が展示されてます。横2mを超える大変大きな仏画で、お釈迦様が入滅し摩耶夫人が嘆き悲しんでいると、お釈迦様が身をを起こし母のために説法したという仏教説話を絵画化したもの。色も良く残っていて、金銀による彩色や色のぼかしなど、大変丹念に描きあげられたものであることが分かります。単眼鏡で覗くと、描かれている人物や動物に名前らしきものも記されています(背景の色や着物の柄に交じったりして分かりづらい)。

左:「釈迦金棺出現図(部分)」、右(参考):伊藤若冲 「象と鯨図屏風(部分)」

右下によもや若冲の白象が!若冲はこうした仏画の図像を参照してるんでしょうね。

「鳥獣戯画断簡」(重要文化財)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)

山崎董詮模写 「鳥獣戯画模本(甲巻)」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)

常設展(総合文化展)にも関連企画の展示があります。本館3室<宮廷の美術>には「鳥獣戯画断簡」と「鳥獣戯画甲巻 模本」。「鳥獣戯画断簡」は甲巻の一部だったとされるもので、昨年重要文化財に指定されたばかり。模本は、東博本断簡につづく部分とされる場面が展示されていました。

伝・狩野元信 「楼閣山水図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)

「梅樹禽鳥図屏風」
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)

<禅と水墨画>には元信と伝わる「楼閣山水図屏風」。昨年の『狩野元信展』には出品されてない作品で、真体による松や岩、山稜の描写が正信から元信にかけての表現を感じます。一方となりにあった「梅樹禽鳥図屏風」は元信の三男・狩野松栄周辺で活動した狩野派の絵師によるとされるもの。梅の木の曲がりくねり方が松栄の息子・永徳が聚光院に描いた「梅花禽鳥図(四季花鳥図襖)」の梅の大樹を彷彿とさせます(ちょうど反転してる)。

亜欧堂田善 「浅間山図屏風」(重要文化財)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)

7室<屏風と襖絵>には江戸後期の洋風画を代表する亜欧堂田善の「浅間山図屏風」。よくよく見ると油絵なんですね、これ。手前から奥へ丘や山を重ねていく遠近感、油絵の独特の色彩、洋風画なのに屏風というのもユニーク。

安土桃山時代の筆者不詳の「宮楽図」は中国の宮廷風俗を描いた作品。恐らく狩野派なのでしょう。京狩野の狩野永敬の「十二ヶ月花鳥図屏風」は昨年も同じ時期に出てましたね。ほかの作品を展示してくれたらよかったのに。

伊藤若冲 「松梅孤鶴図」
江戸時代・18世紀 (展示は2/4まで)

8室<書画の展開>には若冲のおめでたい鶴図。若冲らしい独特のフォルムの鶴と、松なのか何なのか最早よく分からない松が面白い。ここでは酒井抱一の「五節句図」、英一蝶の「大井川富士山図」、宋紫石の「日金山眺望富士山図」、田中訥言の「十二ヶ月風俗図屏風」も印象的。

「縄暖簾図屏風」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 個人蔵 (展示は1/28まで)

<浮世絵と衣装>には、初期風俗画の「縄暖簾図屏風」。立兵庫の遊女が小犬を追って暖簾から顔を覗かせています。縄暖簾と御簾という組み合わせが不思議ですが、左側の御簾は後補だそうで、もともとは男性が描かれていたのではないかと思われているとのこと。『源氏物語』の一場面を下敷きに描かれているそうです。

横山大観 「無我」
明治30年(1897) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)

1階18室<近代の美術>には大観の「無我」と「松竹梅」の屏風。今年、東京近代国立美術館で大観生誕150年の大々的な回顧展が開かれますが、今の時期に並んでいるということは、この「無我」は東近美には出ないんでしょうか? それとも大観展の話題作りの意味で出てるのかな?

ここではほかにも今尾景年の「鷲猿」や柴田是真の「雪中の鷲」、橋本雅邦の「狙公 」、近代洋画では小林万吾の「門付」が印象的でした。青木繁の代表作「日本武尊」や平櫛田中の彫刻なども展示されています。

浅井忠 「グレー風景(黄昏)」「仏国モンクールの橋」
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)

浅井忠 「フランス風景」「グレー風景」
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)

その中で目を惹いたのが、浅井忠が留学先のフランスで描いた水彩画。フランス留学前の、“脂派(やには)”と呼ばれていた頃とは全然違う、明るく優しい色合いと柔らかな光が印象的です。



平成館の考古展示室、東洋館をぐるりと回って、お昼前。午後に用事があったので、法隆寺宝物館と黒田記念館は今回パスしましたが、今年もお正月からトーハクを堪能してきました。


【博物館に初もうで】
2018年1月2日(火)~1月28日(日)
開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。