2015/08/01

うらめしや~、冥途のみやげ展

東京藝術大学大学美術館で開催中の『うらめしや~、冥途のみやげ展 -全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に- 』を観てきました。

谷中の全生庵は明治の噺家で怪談を得意とした三遊亭圓朝の菩提寺。藝大美術館から歩いて10分ぐらいのところにあります。圓朝遺愛の幽霊画コレクションを所蔵していることから、円朝忌の行われる8月の一か月の間、幽霊画を展示するのが恒例になっています。

今年はその幽霊画を藝大美術館でも前・後期に分けて全50幅公開。たぶん展示替えの期間を上手く使って、交互に展示するのでしょう。

藝大美術館の方では、全生庵の幽霊画に加え、長沢蘆雪や曾我蕭白、また浮世絵の歌川国芳や葛飾北斎、近代の河鍋暁斎や上村松園など、江戸から明治にかけて著名な日本画家や浮世絵師による幽霊画も紹介。夏にぴったりの展覧会となっています。

もともとは2011年に開催を予定していたそうですが、東日本大震災の諸影響もあって、開催を延期していとか。確かに東日本大震災のあとでは冷静に観られなかったかもしれませんね。


会場は第一会場と第二会場に分かれ、4つの章から構成されています。
第1章 圓朝と怪談
第2章 圓朝コレクション
第3章 錦絵による「うらみ」の系譜
第4章 「うらみ」が美に変わるとき

土曜日の3時半頃に入ったのですが、結構な人の入り。 開幕最初の週からすごい人気ですね。暑い夏に見たいものはみんな一緒です。入口は暗く細い通路が続き、なんだかお化け屋敷みたいで、テンションもあがります。

第一会場には、全生庵の圓朝の幽霊画コレクションに加え、圓朝の怪談噺にまつわる品々や遺品、自筆資料を展示しています。

鰭崎英朋 「蚊帳の前の幽霊」
明治39年(1906) 全生庵蔵

全生庵には何度か行ってるので、ほとんどの幽霊画は観ているのですが、今回はガラスケースなしで観られるのが有り難い。仄暗い室内には蚊帳がつられていて雰囲気満点です。

メインヴィジュアルにも使われている鰭崎英朋の「蚊帳の前の幽霊」は圓朝の幽霊画コレクション屈指の傑作。怪談に出てくる美しくも気味の悪い幽霊のイメージそのものです。実は圓朝生前のコレクションではなく、七回忌のときに制作されたものとか。三遊亭圓朝の代表作『怪談牡丹灯籠』のお露を描いたといいます。だから蚊帳なんですね。

圓朝コレクションは玉石混淆なところもなきにしもあらずですが、前期展示では月岡芳年の肉筆幽霊画「宿場女郎図」と、五代目菊五郎が『加賀鳶』の死神を演じる際に楽屋にかけたという柴田是真の「桟橋の幽霊」が白眉。ほかにも、是真の高弟・綾岡有真の「皿屋敷」はよく見ると忍び泣く女性の袖の袂が透けていたりして、雰囲気あるなあと思います。中村芳中の幽霊画もあったけど、これ芳中?という感じもしないでもありません。

伝・円山応挙 「幽霊図」
江戸時代(18世紀) 全生庵蔵

伝・円山応挙 「幽霊図」
江戸時代(18世紀) 福岡市博物館蔵 (展示は8/16まで)

幽霊画というと落語にもなっている“応挙の幽霊”がつとに有名ですね。応挙筆と伝えられる幽霊画は多く、本展にも前後期合わせると実に4点も出品されていますし、応挙の幽霊画を模したとされる作品も数点あります。基本的に構図は同じで、白装束の楚々とした女性で、右手を懐に入れ、輿から下は消えています。何かこの世に未練を残した物寂しさが伝わってきます。正直、どれがホンモノでどれが贋作か分かりませんが、弟子の蘆雪による応挙の幽霊画を踏襲した作品もあったので、確かに応挙は幽霊画を描いているし、これだけ人気があったことを考えると、当時どれだけセンセーショナルを巻き起こしたのかが想像できます。

鏑木清方 「三遊亭円朝像」(重要文化財)
昭和5年(1930) 東京国立近代美術館蔵 (展示は8/16まで)

圓朝は百物語に因んで、約100幅の幽霊画を蒐集したといわれていますが、全生庵に現存するものは50幅。内いくつかは圓朝の没後に加わったコレクションもあるようです。一方で、圓朝の七回忌には「圓朝秘蔵の幽霊画80幅あまりに加え、法会に際して新たに制作された幽霊画50幅あまりが陳列された」そうで、そのとき制作されたという絵はがきなどを見ると、鏑木清方や石井滴水など現在のコレクションに含まれてない幽霊画もあって、行方知らずの作品も多くあるんだろうなという気がします。

葛飾北斎 「こはだ小平二 百物語」
天保2~3年(1831-32)頃 東京国立博物館蔵 (展示は8/16まで)

第二会場は江戸時代後半から明治時代にかけての錦絵や日本画の幽霊画の系譜を見ていきます。浮世絵では歌川国芳や月岡芳年、豊原国周、葛飾北斎などで、主に歌舞伎の怪談物や、国芳や芳年あたりが得意の幽霊画。割と浮世絵が並んでましたが、このへんは出せば切りがありませんし、去年の太田記念美術館の『江戸妖怪大図鑑展』と重なるところもあって、まあダイジェスト的な感じ。

河鍋暁斎 「幽霊図」
江戸末~明治3年(1860年)頃 イズラエル・ゴールドマン・コレクション蔵

日本画では、暁斎の「幽霊図」がさすがのクオリティ。“狂斎”時代の作品で、二番目の妻の臨終の姿のスケッチをもとに描いたとか。子どもの頃、川に流れ着いた生首を写生して周りの大人を驚かせたなんてエピソードがある人ですから、尋常ではありません。

ほかにも月岡芳年の不気味な肉筆画「うぶめ」や、美人画で有名な渓斎英泉の恐ろしげな「幽霊図」などが印象的。国内有数の幽霊画コレクションで知られる福岡市博物館の所蔵作品がいくつか来ているのもうれしいところです。蕭白の傑作「柳下鬼女図屏風」が異彩を放っています。

曽我蕭白 「柳下鬼女図屏風」
江戸時代(18世紀) 東京藝術大学蔵

会場の後半に、講談師・一龍斎貞水の『四谷怪談』の口演の映像を上映してる一角があります。映像が19分あるので、これを見る場合はその分の時間も考えておいた方がいいかも。

前・後期で大部分の作品が入れ替えので、観たい作品がある人はチェックしておいた方がいいですね。ちなみに、東博所蔵の松園の「焔」は期間限定の展示なので要注意。

上村松園 「焔」
大正7年(1918) 東京国立博物館蔵 (9/1~9/13のみ展示)

第二会場は閉館近い時間になっても人が多かったのですが、閉館15分前に第一会場に戻ったら、こちらはもう誰もいなくて、一人でゆっくり全生庵の幽霊画を再度堪能できました。天井に蚊帳のかかったほの暗い部屋に聴こえるのは空調の不気味な音だけ。ちょっと怖かったです(笑)


【うらめしや~、冥途のみやげ展 -全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に-】
2015年9月13日まで
東京藝術大学大学美術館にて

過去記事: the Salon of Vertigo: 円朝・幽霊画コレクション


幽霊名画集―全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション (ちくま学芸文庫)幽霊名画集―全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション (ちくま学芸文庫)


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