2017/10/07

江戸の琳派芸術

出光美術館で開催中の『江戸の琳派芸術』を観てまいりました。

出光美術館で琳派は何度も観てると思うのですが、江戸琳派をテーマにした展覧会は実に16年ぶりなんだそうです。

江戸琳派なので酒井抱一と鈴木其一が中心。光琳は数点あるけど宗達はなし。なんと出光美術館所蔵の抱一・其一作品のほぼ全てが展示されているそうです。

抱一や其一に代表される江戸琳派は宗達・光琳とはまた違う華やかさ、色彩美があり、その洗練された画風が大きな魅力でもあります。さすがにここまで江戸琳派が揃うと壮観。出光美術館の琳派作品の充実ぶりにあらためて感心しました。


会場の構成は以下のとおりです:
1 光琳へのまなざし - 〈江戸琳派〉が〈琳派〉であること
2 〈江戸琳派〉の自我 - 光琳へのあこがれ、光琳風からの脱却
3 曲輪の絵画 - 〈江戸琳派〉の原点
4 〈琳派〉を結ぶ花 - 立葵図にみる流派の系譜
5 師弟の対話 - 抱一と其一の芸術

酒井抱一 「風神雷神図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

まずは“琳派といえば”的な抱一の「風神雷神図屏風」。隣には、光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描かれた抱一の「夏秋草図屏風」の草稿が展示されていました。草稿なので銀地ではないし、彩色もあっさりとしていますが、逆にみずみずしい印象を受けます。雷神の裏には雨に打たれた夏の草花、風神の裏には嵐になびく秋の草花を描くという風流人・抱一らしい発想だと思うと同時に、本来四季を表した絵ではない「風神雷神図屏風」に夏と秋という季節的な意味をプラスしたというところがが素晴らしいなと思います。

酒井抱一 「紅白梅図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

琳派は画風の継承というより、画題やモチーフ、デザイン性といったピンポイントなところを流用しつつさらに展開させるという自由さがあると思うのですが、伝・光琳の「紅白梅図屏風」と並んで展示されていた抱一の「紅白梅図屏風」は光琳のエッセンスを咀嚼することで抱一ならではの洗練された作品になってると感じます。ただ、抱一画に先立つ作品として鈴木芙蓉の「紅白梅図屏風」がパネルで紹介されていて、抱一は芙蓉の作品を参考にしてるのではないかとありました。

酒井抱一 「八橋図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

「八橋図屏風」も光琳の「八橋図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)をもとにしていますが、実は燕子花の数が光琳は約130輪なのに対し抱一は80輪だったり、一隻の横幅がそれぞれ45㎝も長かったり、光琳の屏風よりすっきりとした印象があります。抱一の「八橋図屏風」は絹地に描かれていこともあって、色彩の質感もずいぶん違って見えます。ただ摸倣するのではなく、どうアレンジするかいろいろ考えていたのでしょう。

酒井抱一 「燕子花図屏風」
享和元年(1801) 出光美術館蔵

抱一は姫路藩・酒井家に生まれ、若い頃は吉原に遊び、俳諧を嗜むという風雅を地で行く趣味人で、浮世絵など当時の文化に親しみました。今でいえば、都会人であり、現代人であり、そうした環境で磨かれたセンスは雅趣というものは、抱一作品の端々から伝わってくる気がします。

「燕子花図屏風」の軽妙なフレーミング、自ら詠んだ俳句を揮毫した短冊と色紙を貼り交ぜた「糸桜・萩図」の風情。初期の浮世絵作品「遊女と禿図」も、遊女とかむろのバランスが悪いのはご愛嬌ですが、一端の浮世絵師という印象を受けます。

鈴木其一 「蔬菜群虫図」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

鈴木其一 「藤花図」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

抱一のもとで磨かれた確かな腕に、さらにグラフィカルなデザインセンスや色彩感覚を身につけたのが其一。愛嬌のある表情が可笑しい「三十六歌仙図」や、琳派というよりもっと博物学的なリアリティを感じる「蔬菜群虫図」。其一が描いた薄の表装に光琳の富士図の扇面を貼った掛軸装のやまと絵的な風情も見事。「秋草図屏風」や「藤花図」は銀地、銀箔が変色してなければ、どんなに美しかったか。

酒井抱一 「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」(※写真は左隻)
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

抱一の「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」が一双まるまる展示されているのも贅沢。抱一の十二ヵ月花鳥図は人気だったようで複数の作品が知られていますが、その表現は一様でないといいます。解説には「おそらく多くの需要に応えるべく抱一の工房・雨華庵の画家たちが動員されたと思われる」とありました。七月に描かれた向日葵と朝顔とカマキリは抱一というより其一的な匂いがすると以前から気になっていたのですが、もしかしたら弟子時代の其一が担当していた可能性もあるかもしれませんね。抱一の晩年の作品のいくつかは其一が抱一名義で描いていたとする説がありますが、「青楓朱楓図屏風」なんかも其一の画風に妙に近い気がします。どうでしょう。

酒井抱一 「青楓朱楓図屏風」
文政元年(1818) 個人蔵

其一の作品ではいかにも其一らしい「四季花木図屏風」や、個人的にも大好きな「桜・楓図屏風」が出ているのですが、あまりお目にかかることのない「月次風俗図」全十二図が出品されているのが嬉しいところ。「月次風俗図」は四角や丸、扇面など3つの形式の画面に、菜の花に鷽替、梅に鼠、曽我兄弟の仇討ち、雨中の楓、鮎の群れ、砧打、柿に菊、ほおずきに麦藁蛇など、月ごとの季節にちなんだ行事や自然、風俗などが描かれています。もとは押絵貼屏風だったようで、発注主の好みもあるのか、其一にしては割と瀟洒な表現が印象的です。

鈴木其一 「四季花木図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

一時期あれだけ多かった琳派の展覧会も少し落ち着き、あらためて琳派の作品に対峙するいい機会かもしれません。去年サントリー美術館で開催された『鈴木其一展』に出品されていない作品も多いので、其一ファンは必見だと思います。


【江戸の琳派芸術】
2017年11月5日(日)まで
出光美術館にて


別冊太陽244 江戸琳派の美 (別冊太陽 日本のこころ 244)別冊太陽244 江戸琳派の美 (別冊太陽 日本のこころ 244)

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