2018/01/20

墨と金 狩野派の絵画

根津美術館で開催中の『墨と金 -狩野派の絵画-』を観てきました。

室町時代に京都で興り、足利将軍家から織田信長や豊臣秀吉、そして江戸幕府へ、時の権力者や政権の御用絵師として400年もの長きにわたって頂点に立ち続けた狩野派。中国絵画の筆様を整理した“真体・行体・草体”の水墨画、文化の成熟と時代のムードを体現した絢爛豪華な金屏風。本展はその“墨”と“金”という狩野派を象徴する2つの側面から狩野派の何たるかを探ろうという企画展です。

展示は全て根津美術館の所蔵品で構成されていますが、作品数は決して多くありませんし、狩野派を語るには正直全く足りません。ただ、そこはさすが根津美術館なので、良い作品が出ています。

会場に入ると、まず拙宗等楊(雪舟)の「潑墨山水図」と芸阿弥の「観瀑図」と狩野正信の「観瀑図」。それぞれ中国・南宋の絵師・玉澗、夏珪を手本にした作品として紹介されています。中国絵画の受容という意味で、室町水墨画から狩野派への流れの手掛かりになりますし、サントリー美術館の『狩野元信展』のおさらいとしてもいいですね。

芸阿弥筆 月翁周鏡ほか二僧賛 「観瀑図」(重要文化財)
室町時代・文明12年(1480) 根津美術館蔵

その元信の作品が意外にも充実しているのが嬉しいところ。「養蚕機織図屏風」は『狩野元信展』にも出品されていた作品。梁楷の「耕織図巻」を研究した元信らしい傑作です。梁楷の絵巻を屏風に展開した構成力といい、硬軟自在な山水の表現といい、広がりと奥行きのある構図といい、養蚕・機織の的確で精緻な描写といい、非の打ち所がありません。

伝・狩野元信 「養蚕機織図屏風」
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

「猿曳図屏風」は後の狩野派絵師にも引き継がれる画題。ここである程度基本の構図ができているのが興味深い。断簡(?)の「山水図」は真体の山水図で、伝・元信の作と紹介されていますが、観た感じは元信なのか正信なのか判断の難しいところ。中国画風の折枝画「林檎鼠図」は旧大仙院方丈障壁画の折枝画と比べると、ちょっと硬いというか、恐らく工房作なんだろうなという感じがします。鼠の小さく細い指や精緻な毛書きがとてもリアル。

長吉 「芦雁図」(重要美術品)
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

元信の門人とされる絵師の作品を観ることができたのも収穫でした。元信の門人は少なくとも数十人いたといわれていますが、その遺品は少なく、なかなか観る機会がありません。長吉の「芦雁図」は行体の水墨。後期に展示される元信の「四季花鳥図屏風」にもほぼ似た構図の雁の群れが描かれていますが、どちらもソースは牧谿の「芦雁図」。牧谿画にも元信画にも飛ぶ雁が描いているので、長吉の「芦雁図」ももしかしたら上の方に飛ぶ雁が描かれていたのかもしれません。珍牧の「寒江独釣図」は「養蚕機織図屏風」にも描かれていた小舟の上の釣人を描いた作品。これもよく見る構図ですね。関東に進出した狩野玉楽とされる右都御史の「梅四十雀図」は粗放な筆の梅と簡素ながら的確な雀という墨技が楽しめます。

 
狩野探幽 「両帝図屏風」
江戸時代・寛文元年(1661) 根津美術館蔵

江戸狩野では、中国の故事を描いた狩野探幽のきっちりした「両帝図屏風」と、弟・尚信の対照的にミニマルな「山水花鳥図屏風」。「両帝図屏風」は中国古代の皇帝を描いた一種の勧戒画。一方の尚信は探幽が示した瀟洒淡泊と評される余白を活かした減筆体の墨画をさらに推し進めたような屏風で、破墨のような山水と、簡素ながら的確に動態を捉えた鳥が見事。

江戸中期の絵師とされる狩野宗信の「桜下麝香猫図屏風」も印象的。麝香猫も中国絵画や狩野派の作品で見かける画題ですが、ゆるやかな土坡や緑青の水面、また水分の多い絵具で描いた樹木などは琳派を思い起こさせます。

狩野山雪 「梟鶏図」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

京狩野にも触れていて、狩野山雪の作品がいくつか。いずれも京博の『狩野山楽・山雪展』にも出品されていた作品。「藤原惺窩閑居図」と「秋景山水図」は山雪の奇矯さはありませんが、異様に屈曲した松の枝は山雪の特徴でもあるとのこと。双幅の「梟鶏図(松梟竹鶏図)」はフクロウとニワトリの目つきが笑えます。2階には狩野山楽と伝わる「百椿図」も展示されているので忘れずに。「百椿図」は2巻からなる絵巻で、さまざまな園芸椿が花器に見立てたさまざまな器(中にはちりとりや箒も)に飾られていて、大名や皇族・歌人らの筆による和歌や俳句、漢詩が添えられています。

サントリー美術館の『久隅守景展』にも出ていた「舞楽図屏風」もありました。濃い色彩が京狩野の影響というように解説されていたのですが、色が濃ければ京狩野みたいな解説はちょっと短絡的。左隻の舞人の図様は俵屋宗達の「舞楽図屏風」に共通するし、守景とほぼ同時代の狩野永納の「舞楽図屏風」にも似た図様があるので、宗達か、あるいは共通の基となる作品に拠っているのではないかと思われます。

最後にあった「源氏物語図屏風」もちょっと何だかなぁという感じ。解説で指摘されていた永徳より光信風を感じもしますが、人物表現は凡庸・稚拙で、画面構成もボテボテしてまとまりがありません、狩野派とするにはかなり見劣りがします。

伝・狩野山楽 「百椿図」(※写真は一部)
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

少ない作品の中で狩野派らしさ、伝統をいかに見せるかという点で苦労している感じはありますが、狩野派のいくつかの側面を観るという点ではとても良い展覧会だと思います。後期は一部展示替えがあります。


【墨と金 -狩野派の絵画-】
2018年2月12日(月・祝)にて
根津美術館にて


別冊太陽131 狩野派決定版 (別冊太陽―日本のこころ)別冊太陽131 狩野派決定版 (別冊太陽―日本のこころ)

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