2018/02/03

小村雪岱 「雪岱調」のできるまで

川越市立美術館で開催中の『小村雪岱 「雪岱調」のできるまで』を観てきました。

2009年の埼玉県立近代美術館や資生堂アートハウスの回顧展にはじまり、ここ10年でいくつか小村雪岱の展覧会がありましたが、東京近郊で小村雪岱の展覧会が開かれるのは2012年のニューオータニ美術館の展覧会以来久しぶりではないでしょうか。わたしも雪岱の作品をこうして観るのは埼玉県美のとき以来です。

再評価の波もあって最近は雪岱の関連本も相次いで出版されていたり、昨年が生誕130年だったそうで、ちょうといいタイミングの展覧会かもしれないですね。

本展は、鏡花本などの装釘や代表作「おせん」など小説の挿絵原画を中心にした展覧会で、春信に似た細面の美人、肥痩のない細くしなやかな線、シンプルで洗練された構図といった独特の「雪岱調」に行き着くまでとその後の活躍が分かりやすく構成されています。

展覧会の構成は以下のとおりです:
はじめに
第一章 大正期の雪岱
第二章 挿絵の仕事
第三章 「おせん」以後
第四章 雪岱の日本画

会場入ってすぐのところに、雪岱の没後に制作された雪岱画の複製版画があったのですが、クオリティが高くて、面相筆なのか木版なのか分からないぐらいでした。単純な2色の版画ですが、相当摺りを重ねたんだろうという感じがします。

東京美術学校では下村観山に就いて学んでいたという雪岱ですが、展示されていた美校の卒業制作作品という2点は余白もなく隅々まで描き込まれた鮮やかな色彩の作品で、いわゆる雪岱画とは完全に真逆の、そのギャップがとても興味深い。この頃、どういう画家を目指していたのか。

小村雪岱 「青柳」「雪の朝」
大正13年(1924)頃 埼玉県立近代美術館蔵

泉鏡花の小説本の装釘(雪岱は「装丁」でも「装幀」でもなく「装釘」という漢字を用いていたらしい)や資生堂の香水瓶などが並ぶ中、面白かったのが雪岱の描く女性の面貌表現の例として挙げられていたコーナーで、国貞風があったり、水野年方風があったり、大正ロマン風があったりと意外とバラエティに富んでるのが分かります。

雪岱の肉筆の日本画は少ないといいますが、「青柳」「落葉」「雪の朝」の連作は新鮮なトリミングと余白を活かした俯瞰の構図、繊細な線描と落ち着いた色彩に惹かれます。歴史人物画の「武者絵貼り交ぜ屏風」を観ると、古画や絵巻の模写の経験が活きてるんだろうなという印象を受けます。

小村雪岱 「おせん 傘」
昭和12年(1937) 資生堂アートハウス蔵

小村雪岱 「『お伝地獄』より“入れ墨”」
昭和10年(1935) 埼玉県立近代美術館蔵

新聞や小説本の挿絵は当初は好評だったものもあれば不評だったものもあり、一時は挿絵の仕事を控え、舞台美術に集中した時期もあったようですが、だんだんと無駄な描写や“かすれ”などの細工を省き、最低限の線だけで構成された「雪岱調」になっていくのが見て取れます。

谷中笠森稲荷の水茶屋の娘おせんをモデルにした「おせん」は現存する挿絵原画4枚の内2枚が出品。挿絵下図や冊子の絵入草紙、また挿絵をもとに画面構成を改変し描き直された作品などもあり、「おせん」の雰囲気は十分に伝わります。

繊細な線描は原画だからこその味わい。「おせん」以降の「お伝地獄」や「遊戯菩薩」、「忠臣蔵」、「旗本伝法」などの挿絵は墨の二諧調のみの明快でシンプルな画面構成で、物語の一場面をトリミングし、原作をより印象付ける雪岱ならではの行きついた境地のようなものを感じさせます。

小村雪岱 「春告鳥」
昭和7年(1932) 個人蔵

最後にもういちど、主に晩年の肉筆の日本画がいくつか。挿絵画家として活動してからは画壇とも距離を置き、ほとんど展覧会にも出品せず、私的な注文で描くことが多かったとのこと。雪岱調の延長線上にある美人画の数々に、雪岱がもし戦後まで生きていたらどんな作品を残していたのか、と思わずにいられませんでした。

新聞小説の挿絵「西郷隆盛 第二部」は雪岱の最期の作品。「巨盃」を描いたあと倒れ、その2日後に亡くなったそうです。

小村雪岱 「見立寒山拾得」
埼玉県立近代美術館蔵

美術館に着いたのがちょうどギャラリートークが終わったときで少し混んでたのですが、その後は人もまばらでゆっくり鑑賞できました。『日曜美術館』のアートシーンで紹介されるらしいので、会期後半は混み出すかもしれませんね。隣りの常設コーナーにも雪岱の作品が展示されているので忘れずに。


【生誕130年 小村雪岱 -「雪岱調」のできるまで-】
2018年3月11日(日)まで
川越市立美術館にて


小村雪岱随筆集小村雪岱随筆集


小村雪岱―物語る意匠 (ToBi selection)小村雪岱―物語る意匠 (ToBi selection)

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