2018/05/15

池大雅展

京都国立博物館で開催中の『池大雅 天衣無縫の旅の画家』を観てきました。

半年ぶりの京都です。これまで何十回、京都に来たか分かりませんが、実は今まで一度も雨に降られたことのない晴れ男、、、だったのですが(雪だったことはありましたが)、天気が崩れて春の嵐になるとの予報。青空に新緑を楽しみにしてたのですが、空もどんよりして、ちょっと残念でした。(幸い雨は夜降られただけでした)

さて、今年の春の京博は池大雅。ここ10年ぐらい、『狩野永徳展』にはじまり、『長谷川等伯展』や『狩野山楽・山雪展』『桃山時代の狩野派展』、そして去年の『海北友松展』と、桃山から江戸時代にかけての日本美術が春の京博のテーマになっていますが、今年は池大雅ということで(個人的には大変)楽しみにしていました。

でも、南画って人気ないんですねかね。開館前の行列がないだの土日なのに空いてるだのいろいろ耳に入ってきたり、若冲や応挙に比べて地味だと言ったりする人もいますが、なかなかどうして。江戸絵画の絵師ではトップクラスの指定数を誇る大雅の国宝・重文が全て出品されるだけでなく、この規模の回顧展としては約85年ぶりという質量ともに大充実の展覧会。たっぷり2時間半かかりました。


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 天才登場-大雅を取り巻く人々
第2章 中国絵画、画譜に学ぶ
第3章 指墨画と様式の模索
第4章 大雅の画と書
第5章 旅する画家-日本の風景を描く
第7章 天才、本領発揮-大雅芸術の完成

池大雅 「瓢鮎図」
江戸時代(18世紀) 出光美術館蔵

幼くして父を亡くし15歳で扇屋を開いて扇に絵を描いて売っていたこと、早くから書の才能に優れ「神童」と呼ばれたことなど、若かりし頃の大雅のエピソードが語られているのですが、初期作品に交じって、大雅が賛を寄せた鶴亭や彭城百川の作品もあったりして、大雅周辺の人間関係に強い興味を覚えます。昨年観た『柳沢淇園展』でも大雅のことは触れられていて、まだ十代の大雅が淇園のもとに身を寄せていたという話を思い出します。

大雅の作品では出光美術館でも以前観ている「瓢鮎図」がユニーク。瓢箪で鯰を捕まえようとする如拙の有名な「瓢鮎図」がベースにあるわけですが、画面いっぱいに描いた構図や墨の味わいも大らかでいい。大らかといえば、略画の柳に蛙がぶらさがる「青柳蛙図」も大雅らしい楽しい作品でした。

池大雅 「風雨起龍図」
延享3年(1746) 出光美術館蔵

中国絵画の画譜類がいくつか展示されていたのですが、版本なので決して細かに描き込まれたものではないですし、こうした画譜から画法を学ぶといってもさぞ大変だったろうと思います。解説にもありましたが、一介の町絵師が良質な中国絵画を目にする機会なんてまずなかったでしょうから、初期南画の柳沢淇園や彭城百川、祇園南海らとの交流を通して学ぶものは大きかったのでしょう。自ら描法を図示した絵手本というのもあって、随分研究熱心だったんだと感じます。

24歳の頃の作品という「風雨起龍図」では既に、筆墨の巧みな描き分けや淡い色彩や、山稜や家並み、風雨など斜めに対象物を描くという独特の構図が観られ、大雅の学んだ中国画や日本の文人画の先駆・柳沢淇園や祇園南海らの作品と比べても圧倒的に自由で面白い。20代で描いたとされる「西湖図屏風」や「山水図屏風」、「前後赤壁図屏風」 なども画面の構成力、潤いのある筆墨、没骨法や略筆など技法の引き出しの多さは驚くべきものがあり、割と早い時期に自分なりの表現というものを身につけていたんだろうことが分かります。

興味深かったのは指墨画(指頭画)で、席画などパフォーマンス的なものにとどまらず表現の幅を広げる手段として多用していたのでしょう。指や掌を使った表現が大雅のラフな線描や朴訥とした味わいを醸し出しているのが興味深いところです。「翠嶂懸泉図」や「沈香看花・楓林停車図屏風」などところどころ指墨と思われる表現があるのですが、(当時としては)前衛的でありながら、決して奇を衒ったところがないのが素晴らしい。大雅作品によく見られる点描なんかも、この延長線上にある気がします。

池大雅 「陸奥奇勝図巻」(重要文化財)
寛延2年(1749) 九州国立博物館蔵(写真は部分)

展覧会のサブタイトルに『天衣無縫の旅の画家』とあるように、大雅は全国各地を行脚し、土地々々の風景を絵に残してるんですね。実際に富士山や浅間山に登っているというのも凄い。「白糸瀑布真景図」は富士山と白糸の滝を描いた作品では現在最古。「富士十二景図」は青緑山水だったり描法が多彩で、「浅間山真景図」には遠望に富士山と筑波山が見えたり、「日本十二景図」は全国の名勝地が描かれていたり、「芳野山図」は吉野山の景色が中国絵画風に描かれていたり、いろいろ興味深い作品があります。画譜などからは学べない、そうしたリアルな風景表現がまた自身の南画にも反映されていったのでしょう。

池大雅 「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」(重要文化財)
宝暦13年(1763) 静岡県立美術館蔵

池大雅 「楼閣山水図屏風」(国宝)
江戸時代(18世紀) 東京国立博物館蔵

大雅というと、やはり潤いのある筆墨と柔らかな色彩が醸し出す情感の豊かさと、自由でのびやかな風景や味のある人物表現に見られる軽妙洒脱さ、そして明るく広がりのある空間構成が最大の特徴であり、良さだと思うのですが、40代以降の作品からはいよいよ熟達した味わいという感じが加わってきます。

最後の7章は大型の屏風、障壁画が多く、見応えがあるだけでなく、大半が国宝と重要文化財という贅沢さ。人物表現が豊かで繊細に描かれた「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」、力強く量感に満ちた山水表現が魅力の遍照光院の「山水人物図襖」、東博でもお馴染みの「楼閣山水図屏風」、びっしり岩山が描かれた右隻に対し余白を活かした左隻のバランスが印象的な「西湖春景・銭塘觀潮図屏風」など観るべき作品が多くあります。

池大雅 「五百羅漢図」(重要文化財)
江戸時代(18世紀) 萬福寺蔵(写真は部分)

とりわけ萬福寺の「五百羅漢図」と「西湖図」は圧巻。大画面に広々と描いた「西湖図」と、大雅の人物表現の最高峰とでも評したい「五百羅漢図」は必見です。

池大雅 「西湖春景・銭塘觀潮図屏風」(重要文化財)
江戸時代(18世紀) 東京国立博物館蔵

妻・玉瀾にもスポットが当てられていて、2人の共同作品から伝わる仲睦まじさにほっこりします。ほかにも琳派風の作品や風俗画風の作品もあったりして、大雅が南画にとどまらず幅広く画法に関心を持ち、独自の表現を確立していたことも分かります。

池大雅 「釣便図」(国宝)
明和8年(1771) 川端康成記念館蔵

残念だったのは展示ガラスに貼られた作品解説。ちょうど視線の高さにあるのと、フォントサイズが大きく場所をとるので、掛軸や小画面の書画などは作品解説が邪魔で作品の正面に立たないと観られない(横から覗けない)という弊害を作っていて、逆に混雑の原因になっていたと思います。これは今後改善してほしいですね。


【池大雅 天衣無縫の旅の画家】
2018年5月20日(日)まで
京都国立博物館にて


池大雅 中国へのあこがれ―文人画入門池大雅 中国へのあこがれ―文人画入門

0 件のコメント:

コメントを投稿